江戸の男女が密会に利用した「出合茶屋」。現代のラブホテルを舞台に訳アリ女性を描く時代小説

レビュー

4
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れんげ出合茶屋

『れんげ出合茶屋』

著者
泉ゆたか [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575245547
発売日
2022/09/15
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

江戸の男女が密会に利用した「出合茶屋」。現代でいうラブホテルを舞台に、訳アリ女たちが人生を切り拓いていく! 喧嘩して笑って泣いて仕事して──チアフル時代小説『れんげ出合茶屋』泉ゆたか

[レビュアー] 細谷正充(文芸評論家)

『髪結百花』で高く評価され、日本歴史時代作家協会賞新人賞、細谷正充賞をダブル受賞、「お江戸縁切り帖」「眠り医者ぐっすり庵」などの文庫シリーズも好調な泉ゆたかさん。

デビュー以来、働く人の喜びや苦悩を描いてきた著者が最新刊で選んだ舞台は、なんと“お江戸のラブホテル”。人生うまくいかない3人女が作った、よそにない全く新しい茶屋とは……?

ぶつかりながらも商売繁盛目指して奮闘する姿に元気をもらえる時代小説です。

「小説推理」2022年11月号に掲載された書評家・細谷正充さんのレビューで『れんげ出合茶屋』の読みどころをご紹介します。

 ***

元お嬢様のお志摩。働き者のお咲。純情で尻軽なお香。女3人で始めた出合茶屋は、どうなるのか。泉ゆたかの新作は、厳しさと優しさが詰まっている。

泉ゆたかは、常に快調である。『お師匠さま、整いました!』で第11回小説現代長編新人賞を受賞すると、以後、『髪結百花』『お江戸けもの医 毛玉堂』『江戸のおんな大工』と、時代小説を順調なペースで刊行。『おっぱい先生』という現代小説も執筆している。

 一方で、「お江戸縁切り帖」「眠り医者ぐっすり庵」という文庫書き下ろし時代小説シリーズを抱えており、こちらも評判になっている。そんな作者の最新刊が上梓された。上野不忍池の畔で、出合茶屋を始めようとする女3人を活写した佳品だ。

 口入屋で一番の腕利き女中のお咲は、新たな仕事を得た。上野不忍池の畔で新たな商売を始めるという女主人の「ちょっとやそっとのことでは動じない、うんと気の強い女を寄越しておくれ」という依頼主の言葉に、口入屋が応えてのことだ。いざ上野に行ってみれば、そこにいたのは呉服屋「紅葉屋」のお嬢様だったお志摩である。かつて母親が「紅葉屋」に奉公していたお咲は、お志摩の遊び相手をしていた。しかし「紅葉屋」が潰れてからの消息は、分からないでいた。ここで出合茶屋を始めるというお志摩に、何があったのだろうか。

 戸惑うお咲だが、お志摩の知り合いで、純情だが尻軽なお香と、成り行きで居候になった絵師の左之助も加えて、開店の準備に追われるのであった。

 デビュー作の受賞スピーチで作者は、「働く人を描きたい」といっていた。本書もそれを形にしたものといっていいだろう。「蓮華屋」と名付けた出合茶屋に集まった女3人。開店時期を考え、最初は蓮飯屋をやるなど、波乱含みだ。しかしそれを活用し、ユニークな出合茶屋にする。それぞれの長所を生かして店を繁盛させていく、3人の行動が楽しい。特に、現代の諸相からフィードバックしたような、お志摩の数々のアイデアが愉快であった。

 さらにストーリーが進むと、3人の抱える過去が見えてくる。誰もが悲しい過去を持って、それが今の生き方に繋がっている。女性ならではの苦悩を掘り下げる、作者の筆致は厳しいが、彼女たちを見つめる眼差しは温かい。さまざまな騒動を経て、前向きになっていく3人の心が、気持ちよく表現されているのだ。

 また、左之助の抱える事情や、彼とお咲の関係、出合茶屋を利用する女たちのあっけらかんとした姿なども要チェック。読みどころの多い作品なのである。

小説推理
2022年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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