女海賊の活躍と極上の料理で時代の空気を味わう

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  • シナモンとガンパウダー
  • バベットの晩餐会
  • 村上海賊の娘(一)

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女海賊の活躍と極上の料理で時代の空気を味わう

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 イーライ・ブラウン『シナモンとガンパウダー』(三角和代訳)はユニークな海洋冒険&美食小説だ。

 時は一八一九年。イギリスの貿易会社会長である雇い主を海賊に殺され、拉致された料理人のウェッジウッドは、荒くれどもと大海原へ。女船長のマボットに見込まれた彼は、毎週彼女のために極上の料理を提供せねばならなくなる。しかし船内には充分な食材も調理器具もない。知恵を絞って凝った料理を提供しつつ、ウェッジウッドは脱出の機会をうかがう。しかし少しずつ、マボットの過去や、略奪行為の裏の目的が見えてきて……。タイトルのシナモンはウェッジウッド、ガンパウダーつまり火薬はマボットの象徴だ。二人をはじめクセの強い登場人物みなが非常に魅力的。

 ウェッジウッドの元雇い主の貿易会社は、東インド会社がモデルだ。十九世紀初頭といえば、イギリスがインドで製造したアヘンを中国に輸出していた時期。アヘン戦争の前である。海賊たちの狼藉の背景に、当時の悪しき三角貿易が見えてきて、楽しいエンターテインメント作品ながら歴史のおさらいをした気分だ。

 次に挙げる本として浮かんだのは、海賊とは関係ないがイサク・ディーネセン『バベットの晩餐会』(〼田啓介訳、ちくま文庫)。ノルウェーの田舎町で中年姉妹に仕えるフランス人のバベットは、富くじで当てた大金を使い、姉妹の父である牧師の生誕百年の祝宴で料理を振る舞いたい、と申し出る。豪華料理で読者をも魅了しながら、当時の女性への抑圧や、文化・宗教・政治的な背景を立ちのぼらせる点が『シナモン~』に通じる。

 もう一冊は、やはり女海賊モノを挙げたい。和田竜『村上海賊の娘』(新潮文庫、全4巻)は、戦国時代、瀬戸内海に君臨した村上水軍の娘、村上景の活躍を描く。こちらも強烈な個性の人物が続々登場、アクションシーンもたっぷり描かれる。そんななか、家の存続のために戦うのか、人を助けるために戦うのかといった個々の大義名分と葛藤でも読ませる。本屋大賞と吉川英治文学新人賞受賞作。

新潮社 週刊新潮
2022年11月3日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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