〈わたしの問い〉を他者と共有するために

レビュー

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水中の哲学者たち

『水中の哲学者たち』

著者
永井玲衣 [著]
出版社
晶文社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784794972743
発売日
2021/09/28
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

〈わたしの問い〉を他者と共有するために

[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)

「哲学」という言葉を聞くたび、ついつい専門用語がぎっしり詰まった、こわもての書籍を想像してしまう。だが、英語のphilosophy(哲学)が古代ギリシャ語のphilosophiaに由来するというのはよく知られた話だろう。知(sophia)を愛する(philo)―それは、あくまで探究する「営み」を指す言葉なのだ。

 今回紹介するのは永井玲衣の哲学エッセイ『水中の哲学者たち』。昨年九月に発売されるや、柔らかなユーモアと、「詩的」とも評される独特の余韻を備えた文章が大きな話題となり、一週間で重版が決定。現在九刷一万六千部と着実に愛読者を増やし続けている。

 著者の永井氏は、学校や企業、美術館など幅広い場所で「哲学対話」のファシリテーターとして活躍してきた哲学研究者。哲学対話とは、その場ごとにテーマを設け、複数人で話しながら思考を深めていく活動のことだ。「永井さんの哲学の根底にあるのは、“問いを立てる”という部分。つまりは誰しもが哲学の実践者になれるということなんです」と担当編集者は語る。

〈借り物の問いではない、わたしの問い〉に、みんなで潜って考える。そこに必ずしも答えや正解があるわけではない。実際、本書の中に登場する哲学対話の参加者たちは、言い淀んだり、つっかえたり、ややもすればテーマと関係ないようなことを口走る。だが永井氏は、そんなふうに彼らが奮闘する過程で生まれる、わかりづらさや奇怪な論理にむしろ惹かれると書く。なぜなら、そうした言葉のありよう自体が、わけのわからないことだらけのこの世界の姿をそのまま映し出しているように見えるからだ。

「永井さん曰く、哲学の文章というのはもともと詩の文章に近い性格を持っている、とのことなんです。哲学はさまざまな物事の本質を捉えようとする営みですが、捉えたものを普遍化する試みも必要になってくる。まだ自分の中にしか通っていない道理を他者と共有するため、一見迂遠だったり、時に不合理に飛躍したりしながら、どうにかして言葉として紡ぎ出していく―そのありようは、確かに詩の文章に通じるんじゃないでしょうか」(同)

新潮社 週刊新潮
2022年11月3日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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