なぜハワイは居心地が良いのか? モデル・浜島直子が気づかされた多様性の一歩先をゆく「懐の深さ」

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

山とハワイ 上

『山とハワイ 上』

著者
鈴木 ともこ [著]
出版社
新潮社
ジャンル
芸術・生活/コミックス・劇画
ISBN
9784103548317
発売日
2022/10/27
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

山とハワイ 下

『山とハワイ 下』

著者
鈴木 ともこ [著]
出版社
新潮社
ジャンル
芸術・生活/コミックス・劇画
ISBN
9784103548324
発売日
2022/10/27
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ハワイの魅力を新発見!

[レビュアー] 浜島直子(モデル)

「アロハ」と笑顔で挨拶すると、あたたかい気持ちになるのはなぜだろう? 『山登りはじめました』の著者・鈴木ともこが、コミックエッセイ『山とハワイ』(新潮社)を刊行。いるだけでハッピーになれる、ハワイの魅力を描いた本作について、モデルの浜島直子さんが読みどころを語った。

 ***


モデルの浜島直子さん(撮影:浅井佳代子)

 ハワイには今まで4回行ったことがあって、そのうち2回がマウイ島、もう2回がオアフ島です。どれも思い出深いのですが、特に忘れられないのは、「世界ふしぎ発見!」という番組で初めてマウイ島を訪れ、ハレアカラ山に登ったときのこと。ハワイ島の活火山マウナ・ロア(世界最大の山!)を2泊3日で登った鈴木さんと違い、私はロケバスで、でしたが、頂上はものすごく寒い上、足裏にゴツゴツした地面を感じながら、生命の気配がしない赤っぽい大地を前に、別の惑星にたどり着いた?と勘違いしそうなほど圧倒されて……。

 そのまま朝日を待つ間、得体の知れない真っ暗なものが遠くで口を開けているような、まるで「むき出しの地球」と対峙しているかのような怖さを感じました。だからこそ、太陽が昇り、地面がオレンジ色に照らされ、徐々に黄金色に染まっていく様子には、本当に感動しました。それに、暖かい日差しが、雲も空も街も人も、みんな毛布みたいに包み込んでくれて、心の底から安心した記憶があります。

 それまで私が知っていたハワイはオアフ島だけで、ハワイと言えば、高層ホテルが並ぶビーチ、色鮮やかなアサイーボウル、何でも買えるアラモアナセンター……といった、「浮かれた観光地」という認識でした。そんな私の中のハワイのイメージは、大自然の脅威と恵みに同時に触れたこのマウイ島での経験で、ガラッと変わったんです。

 鈴木さんも私と同じで、本書で描かれた1ヵ月の旅で、ハワイに抱いていたイメージを180度変えられました。漫画『山とハワイ』では、そんな「リゾートだけじゃないハワイの魅力」が、余すところなく描かれていて、すっごく面白かった!


『山とハワイ』上巻より

 本書のメインイベントは2つ。ハワイ島でマウナ・ロアに登ることと、カウアイ島の秘境「カララウ・ビーチ」をテント泊でハイキングすること。読みながらずっと、鈴木さんご夫婦の果敢な挑戦をワクワクしながら追体験して、へとへとになる鈴木さんを思わず応援したり、自分を取り囲む世界の常識が一瞬で変わるほど美しい景色に興奮したり、自分もその場にいるかのような感動を覚えました。

 そう、漫画を読んでいる間ずっと、私は鈴木さん一家と一緒にハワイを旅していたんです。コロナ禍で気軽に旅に出られなくなって久しいからこそ、漫画を通じて非日常に身を置けることが、とても貴重な体験だとも感じました。

 正直に言えば、私はマラソンと山登りをする人にあまり共感できないのですが(笑)、『山とハワイ』を読んだいま、不思議と山に登りたくなっています。

 それは多分、山登りも旅と同じで、「非日常」に身を置けるから。鈴木さんもそうだったように、頂上を目指す道中、特にしんどい状況では必然的に自分と向き合わざるを得なくて、「いま自分は本当は何が好きなのか」とか、「あの人のこと苦手なだけで嫌いではないかも」とか、日常から離れたからこそ辿り着ける思考というのが、旅にも山登りにもあるんじゃないかな……なんて、読んでいるうちにいつしか哲学的な境地にも至る瞬間がありました。


『山とハワイ』上巻より

 山登り以外にも、町をぶらぶらしながら美味しいものを食べたり、お土産を買ったりと、鈴木さんのご両親と息子さんも一緒の3世代の旅ならではの、ゆったりと過ごす時間も楽しく描かれています。鈴木さん親子の、ボケとツッコミの絶妙なやりとりには、何度も笑ってしまいました。

 まるで生活しているかのようにハワイ島とカウアイ島に馴染む鈴木さんの姿から、私は、マウイ島で感じた、そこはかとない居心地の良さを思い出しました。それは、パリだとちょっと気取って格好つけちゃうけれど、ハワイではありのままの自分でいられる、というような感覚だったのですが……。その理由が今回はっきり分かりました。

 というのは、現地の人々、特に日系の方々との出会いを通じて、鈴木さんはハワイの歴史に興味を持つのですが、この「ハワイの歴史」というのが、本書のもう一つの大事なテーマなんです。英国人に「発見」されて以来、多くの土地を欧米人に支配されたこと、その結果ハワイアンの伝統が失われてしまったこと、様々な国からの移民を受け入れてきたこと……。そんなハワイの歴史を通じて鈴木さんは、なぜハワイがこんなにも居心地が良いのかを考えていきます。

 人種も文化も価値観も違う人々が、厳しい環境のなかで生きていくために、互いの違いを認め合い、受け入れる。誰のことも否定しないし、自分のことも否定しない。その歴史を知るほどに、「そのままでいいんだよ」と言われているかのような、ハワイで感じる「懐の深さ」の源に、思い至っていくのです。「多様性」の一歩先をハワイの人々は歩んでいたということに、私も初めて気付かされました。時代がハワイに追い付いた、とも言えるかもしれません。


『山とハワイ』下巻より

 山登りが大好きな母、博物館好きの父、ビール党の夫、海好きの息子、そして私の買い物欲……家族の希望をすべて満たしてくれるハワイに、いつか鈴木さんの旅をお手本に家族みんなで訪れることが、今の私の夢です。円安だけが心配だけれど……(笑)。

新潮社 波
2022年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク