初めて会った方のアパートに泊めてもらった 小説家・水生大海がコミケに参加した思い出を語る

エッセイ

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

女の敵には向かない職業

『女の敵には向かない職業』

著者
水生大海 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334914899
発売日
2022/10/19
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

a long time ago『女の敵には向かない職業』著者新刊エッセイ 水生大海

[レビュアー] 水生大海

 初めて東京に行ったのは、夏コミだ。

 と書きたいけど、ちょっと違う。初めての東京は中学校の修学旅行。でもその後ひとりで東京に行ったのは、コミックマーケット目当てだ。

 たしか夜行電車を利用した。着いて、まずショック。朝食をとる店がないことに気づいた。喫茶店に行けばモーニングを食べられる東海地域の住人が、一度はかかる罠だ。今どきはファストフードカフェがあるけどね。

 なのでこれは古いお話、晴海でコミケが開かれていた時代のこと。サークル参加をして現地集合の友人と長机について同人誌を販売し、交代で目当てのサークルに並んで同人誌やグッズを買う。描き手の方とお話をして、スケッチブックにイラストとサインをもらう。売り買いとともに交流を楽しんだっけ。だが会場からはバス移動とあり、帰りを急ぐ人は多いわ撤収時間は重なるわでなかなか乗れず、このままでは家に帰れなくなると途方に暮れた。いやそうなる前に、年上の友人が「一緒に泊まろう」と誘ってくれていたのだったか。いずれにせよ初めて会った方のアパートに泊めてもらった。

 今思い返すと、若いって怖いもの知らずだ。でも友人も泊めてくれたお姉さんも親切で、ミンチで作った美味しい肉じゃがをいただき、感想戦に花を咲かせたのを覚えている。

 なんて当時の思い出は、十月発売の『女の敵には向かない職業』にさほど入れられなかったので、ここに記してみた。

『女の敵には向かない職業』の主人公・彩華は漫画家の卵。勤めていた会社の倒産を機に、これが最後のチャンスとばかりに上京して、憧れの漫画家・香蓮のアシスタントとしてそのスタジオに入った。―はいいけれど、とんでもない「女の敵」がいてメンタルを削られる毎日。しかも盗難事件にファン(?)の襲撃とトラブルが続き、遂には……!

 なにが起こったのか、ぜひ本書を読んでください。ちなみに女の敵は、表紙で堂々と顔を晒してます。

光文社 小説宝石
2022年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク