他人のテリトリーを侵すことに喜びを感じる犯罪者に立ち向かう 名探偵ライムシリーズ、3年ぶりの新作

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真夜中の密室

『真夜中の密室』

著者
ジェフリー・ディーヴァー [著]/池田 真紀子 [訳]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784163916019
発売日
2022/09/27
価格
2,860円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

名探偵ライム、三年ぶりの登場!『真夜中の密室』 ジェフリー・ディーヴァー

[レビュアー] 西上心太(文芸評論家)

『ボーン・コレクター』の作者で知られるジェフリー・ディーヴァーによる『真夜中の密室』(文藝春秋)が刊行。怪人VS名探偵の興奮に満ちた現代謎解きミステリの新傑作といわれる本作の読みどころを、文芸評論家の西上心太さんが語る。

 ***

 SNSで情報を発信する女性インフルエンサー宅への侵入事件が続いた。犯人は厳重な錠前をスムーズに解錠して部屋に入り、破った新聞紙に因果応報というメッセージと、解錠師(ロックスミス)という署名を残して去って行ったのだ。下着と包丁が盗まれただけで、眠っていた女性に危害はなかったが、犯人がSNSに侵入の証拠写真を投稿したことで、犯行は知れ渡る。一方、殺人罪で逮捕された大物ギャングの裁判に検察側の証人として出廷したリンカーン・ライムだったが、反対尋問で証拠分析過程の不備を指摘され、ギャングは無罪になってしまう。自分の人気低下を恐れた市長は、ライムとニューヨーク市警の契約を解除し、捜査に携わることを禁止した。

 怪盗対名探偵の現代版といえるのが、リンカーン・ライムシリーズで、実に三年ぶりの登場だ。この間に刊行が続いていたコルター・ショウシリーズでも言及されていたが、ネットによる発信がもたらす危険性がテーマの一つになっている。

 他人のテリトリーを侵すことに無上の喜びを感じるのがロックスミスだ。狙いをつけた女性の投稿映像を精査してデータを集め、卓越した解錠能力で犯行に及ぶのだ。彼女たちを、目立つことで捕食されやすいアルビノの鹿と決めつけるなど、独自の論理を持つ、このシリーズにふさわしい犯罪者である。

 公式捜査ができないことに加え、大物ギャングはライムへの報復を企てており、さらに社会制度の破壊を企(たくら)む闇の政府が存在するというデマを拡散するサイトの存在が事態を複雑化していく。

 遅滞なく進む起伏あるプロットは健在。カットバックを巧みに使った構成によって、何重もの逆転劇が際立つのだ。やはりディーヴァーは面白い。

光文社 小説宝石
2022年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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