理解が得られない?先が見えない?変革を担う企業のDX担当者をプロジェクト成功に導くToDoリスト

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理解が得られない?先が見えない?変革を担う企業のDX担当者をプロジェクト成功に導くToDoリスト

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

DX(Digital Transformation)ということばが一般化した近年は、さまざまな企業の経営者や担当者がDXについて考えたり、悩んだりしているのではないでしょうか?

事実、『経営者から担当者まで、あらゆるレイヤーの疑問に答える AIとDX戦略』(渡辺裕樹 著、すばる舎)の著者も、そういった相談を受けることが多いのだそうです。

小売やメーカー企業に向け、さまざまな経営課題を顧客の感性と紐づけて解決する、AIソリューションを提供し、DXの支援を行うスタートアップの創業者。

その活動の根底には、「感性というものをAI技術を用いて表現できれば、消費者の気持ちを理解し、気持ちを動かすような商品やサービスを提供できるのではないかという考えがあるのだとか。

そこで本書では、とくに次のような悩みをお持ちの経営者や担当者に向け、解決のためのヒントやガイドラインを示しているのです。

・DXやAIで自社のビジネスをどう変革できるのか

・DXを始めるにあたって、何から着手していけばよいか

・DXプロジェクトを成功させるために、何に気をつけるべきか

(「プロローグ」より)

人の気持ちのメカニズムを解明しようとしているわけですから、当然のことながらそれは壮大かつ難易度の高い挑戦ではあるでしょう。

しかしそれでも、人の気持ちがより尊重され、交流し、高め合っていけるような社会を実現するために、それは必要なシステムであると信じているのだといいます。

きょうは Chapter 5「未来を実現するために今日やるべきこと」のなかから、「変革を担うDX担当者がやるべきこと」をクローズアップしてみたいと思います。

DXの担当者やプロジェクトチームのリーダーが、プロジェクトを成功に導くためになにを行うべきかを紹介したパートです。

関係者の意識を変えていくチェンジマネジメント

うまくいっていないDXプロジェクトでは、「業務部門の理解が得られない」という壁に当たっているケースが多いそう。

そしてDXを進めるにあたっての現場の痛みとは、「あるべき姿を目指していくうえで、業務プロセスを変えなければならないこと」。よく話題に出る「AIに仕事を奪われる」「慣れ親しんだこれまでのやり方を変えなければならない」というような部分が、「痛み」となってときに反発を生んだりするわけです。

変化をよしとしない人や、保守的な方法を守ろうとする人たちが現れると、プロジェクトが停滞してしまうこともあるでしょう。そこで、そうした反発を生じさせないために必要なのが「チェンジマネジメント」。

チェンジマネジメントとは、組織を変革に導くためのマネジメント手法。DXなどの変革を進めるにあたっては、現場部門を中心とするステークホルダーをどう巻き込み、関係者の意識をいかに前向きに揃えていくか、プロジェクトの推進力に大きく影響する要素なのだと著者は解説しています。

その際に意識していただきたいことは、「ビジョンを伝える」ということです。

経営者が描いているDX後のビジョンをしっかりと理解し、それを翻訳して業務部門など関係者に伝え、動かしていく力が求められます。経営者の示したビジョンに向かって、「今、何が課題となっているのか」「それをどう解消してほしいか」をきちんと経営者の代弁者として社員に語れることがとても重要になります。(206〜207ページより)

具体的には、「いま実施しているDXプロジェクトが成功する」と、「自分達のお客様に対してどのような価値を提供できるのか」という視点で会話をしていくといいそう。顧客との関係性をどうしたいかについて語ることで、すべての従業員のベクトルを揃えていくことができるわけです。

また、プロジェクトメンバーとして現場部門の方にも積極的に参画してもらうことも有効。業務を行う側から見た“使いにくさや懸念点”などを洗い出し、それらをメンバー全体で共有し、解決方法を考えていく。そうすれば地に足のついた施策になっていきますし、不安が解消され、協力も得やすくなるということです。(205ページより)

経営者目線でのコミュニケーション

プロジェクトマネージャーの悩みごととして、「DXに必要な投資の予算が得られない」「経営のコミットメントが得られない」ということもよく耳にすると著者はいいます。

その解決のために必要なのは、DXプロジェクトを推進していくうえで、プロジェクトの進捗や成果、課題などを、経営者と同じ目線で経営者に説明し、必要なアクションを引き出していくこと。

なお、経営者目線の重要な要素は「財務」の視点。プロジェクトの目的と合わせて、その費用対効果をきちんと定量的に示し、その意義を伝えていくことが重要だという考え方です。

また、スタート時に決めたプランに対してマイルストーンを設定し、その解像度や実現可能性を段階的に引き上げていくアプローチも有効であるようです。

DXやAIプロジェクトは不確実性が高いため、実証実験などのフェースを細かく設定し、各フェーズごとで検証すべき論点を明確にしながら進めれば、成功確率を高めることができるからです。

たとえばプロジェクトを立ち上げる段階で、初期の青写真として、「売上に対してこれだけのインパクトがあり、それに対して必要な投資額がこれくらい」という見積りで始めたとします。そのうえで、

・第1フェーズでは、「過去データを用いたシミュレーションで施策の核となるAI技術の有効性を検証」

・第2フェーズでは、「範囲を限定した業務に適用して実効果や課題を検証」

・第3フェーズでは、「システムや業務プロセスの要件を精査して実現可能な計画への落とし込み」

・第4フェーズでは、「実装と本格的な運用開始」

(208ページより)

というように設計していくわけです。こうすることで、最初に立てた仮説が徐々に検証されていき、財務的な計画の解像度が段階的に上がっていくのです。

このような財務視点でのコミュニケーションを意識することによって、プロジェクトに必要な予算が得られるようになるはず。また、課題が生じた場合においても経営層からのサポートを得られやすくなるわけです。(207ページより)

著者は、人の感性が活かされ、必要なものが必要なときに、必要な人のもとへ届いていくような社会を実現していきたいと考えているのだそうです。そうした意識を軸とした本書は、今後のさまざまな課題を解決するために役立ってくれるかもしれません。

Source: すばる舎

メディアジーン lifehacker
2022年10月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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