『世界インフレの謎』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
インフレはニッポンにも来る その危機を好機に変える鍵とは?
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
『ついに本気出してきたインフレが怖くなって東大大学院教授にすがりついてみたら中学以来の謎だった物価の仕組みがスルスル頭に入って一安心したんだが』――そういうラノベみたいなタイトルに変えて大々的に売り出せと無茶な要求を交え『物価とは何か』(講談社選書メチエ)をココで紹介したのは今年の3月。コロナ明けにウクライナ開戦まで重なった海外の急かつ派手なインフレがこのデフレ大国にまで上陸! と騒がれ始めた時期に、まっとうなのにわかりやすい研究者の書が運よく世に出た以上、早く広く読まれるべしと興奮していたわけですが、あれからわずか半年強。同じ著者による新書が「緊急出版!」されました。
『物価とは何か』との比較で言えば、物価が動く仕組みについての講義(インフレを正しく恐れるのに不可欠)は必要十分であるうえに、最近の経済情勢(米国の退職・離職ブームや執拗な利上げ等々)の背景や物価との関連の読み解きが追加されてるわ、今後の動向(世界はどうなる、ニッポンどうする)を考えるヒントが増量されてるわ、嗚呼それなのに値段は半分。税込み2000円超の地味な選書である前著でさえ「異例のヒット!」となってる今、オビのアオリが眼に鮮やかなこの990円新書、そりゃ馬鹿売れするわな。
選書より新書で強化された点はもひとつあって、それは賃金。あれこれ安いこの国でもデフレはようやく強制終了しそうだけれど、ここで賃上げできるなら経済復活の目あり、据え置きならスタグフレーション地獄――というのが著者の見立てで、だとすれば、千載一遇のインフレはどうやら蜘蛛の糸。値上げによる利益を従業員に分配して皆で極楽を目指すのか、内部留保さらに積み増しで労働者を見捨て一緒に血の池に落ちるのか。その鍵を握るのがケチで臆病な政府&企業である以上、無欲で従順な働き手もついに堪忍袋の緒を切るときが来たようです。