『教養としての決済 (原題)The Pay Off』ゴットフリート・レイブラント/ナターシャ・デ・テラン著(東洋経済新報社)

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教養としての決済

『教養としての決済』

著者
ゴットフリート・レイブラント [著]/ナターシャ・デ・テラン [著]/大久保 彩 [訳]/上野 博 [監修]
出版社
東洋経済新報社
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784492681497
発売日
2022/08/26
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

『教養としての決済 (原題)The Pay Off』ゴットフリート・レイブラント/ナターシャ・デ・テラン著(東洋経済新報社)

[レビュアー] 佐藤義雄(住友生命保険特別顧問)

生活変える 決済の変化

 「決済」は多くの人にとって、毎日の生活で日常的に行う一方で、あまり馴染(なじ)みがない分野でもある。何か大きな変化が起きる可能性がメディアでも報じられており、自分の仕事や生活にも影響するかもしれない、「教養としての決済」と銘打たれており概略を手っ取り早く勉強しておこうと、本書を手に取る人も多いかもしれない。だがこの分野の第一線で活躍してきた専門家による本書は、現在、転換期にある決済の変化が人々の生活を一変させる可能性があり、地政学的な覇権の動向にも大きく関わるということを詳細に論じており、題名とは裏腹に単なる概説書を越えた骨太な内容となっている。

 本書の前半では決済の歴史、各国の決済の違い、最新の暗号資産やデジタルマネー、そしていくつかの中央銀行が既に検討中のデジタル通貨や一時大きな話題となったフェイスブック(現メタ・プラットフォームズ)が計画した暗号通貨「リブラ」(現ディエム)、決済を脅かすサイバー攻撃の動向などがわかりやすく紹介され、決済の世界の概略をつかむことができる。

 だが本書の本領は、決済の変化が人々の生活と世界をどう変えていくかを論じたことにある。デジタル弱者が決済から排除され格差が拡大しないか、利便性向上は金銭感覚を麻痺(まひ)させないか、決済の中心として自他共に認めてきた銀行と新興異業種の決済をめぐる激烈な競争はどうなるのか。そして、国際政治を支配するマネーの力を裏で支える決済の世界での覇権争いの現在と未来の可能性を論じる。

 著者は巨大な国際決済ネットワークSWIFTの元CEOと、英国でこの分野の政策にも関わる元ジャーナリスト。決済を知り尽くした2人ならではの様々な事件やエピソードも満載される。決済という狭い領域での「教養」を身につけようと読み始めた読者に、もっと大きなスケールで未来に思いを馳(は)せる視点を与えてくれる一冊である。大久保彩訳。

読売新聞
2022年11月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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