『情無連盟の殺人』
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<東北の本棚>感情を失う奇病が題材
[レビュアー] 河北新報
現役医師でもある著者が、架空の奇病を題材にした長編ミステリーに挑んだ。謎の病によって人生の転機を迎えた主人公が偶然にも殺人事件に巻き込まれ、犯人捜しに当たる。突拍子もない設定にも思えるが、リアルな情景描写や論理的なストーリー展開で、読者を不思議な世界へといざなう。
病の名は「アエルズ」。徐々に感情が失われていくのが特徴で、治療法は見つかっていない。あらゆる感情を無くした人々は通称「情無(じょうなし)」と呼ばれる。罹患(りかん)した主人公の麻酔科医伝城英二は病気の進行を機に勤務先の病院を辞してひっそりと日々を過ごしていたが、「情無連盟」というアエルズ患者の共同生活に誘われる。彼らが暮らす屋敷に泊まりがけで見学に訪れた日に連盟員の1人が殺害される。
まずもって、情無連盟の共同生活が奇妙だ。年代も経歴もさまざまな男女8人がロボットのように規則正しく暮らし、一見平穏なコミュニティーを形成している。物欲や食欲など人が持つさまざまな欲が消えうせ、全てが合理的に判断される状況は、争いもなく理想郷のようでいてどこか不気味さが漂う。「殺意」という感情がないはずの空間で命が次々と奪われる状況も意表を突く。
謎解きは読んでのお楽しみ、ということでここでは省くが、著者の医学的知識が、架空の舞台に現実味をもたらしている。物語終盤に描かれる主人公のある決意は、続編を予感させて興味深い。
著者の浅ノ宮は仙台市出身の推理作家。2014年に「消えた脳病変」で第11回ミステリーズ!新人賞を受賞し、同作を連作化した「片翼の折鶴」(文庫は「臨床探偵と消えた脳病変」と改題)を16年に刊行。真庵は浅ノ宮と同じ現役医師で、本著がデビュー作となる。(長)
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東京創元社03(3268)8231=2090円。