『超・東大脳のつくりかた』
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一線で活躍する東大出身者7人のルーツを紐解いたらみえてきた「人生の転機」と「キャリア選択の基準」
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『超・東大脳のつくりかた』(五十嵐才晴 著、あさ出版)の著者は、東京大学大学院 新領域創成科学研究科に籍を置く人物。初の著作である本書においては、東大を卒業し、各界の前線で活躍している7名からさまざまな体験談や思いを聞き出しています。
つまりは完全な「インタビュー本」であるわけですが、そのような構成にしたことには、ある思いが影響しているようです。
本書で紹介する方々は、東大の中でも特異な「超・東大脳」を持つといっても差し支えないと思われます。
しかし、産まれた時を見れば、彼らもまた私たちと同じように、何もできなかった赤子に過ぎません。
何が彼らを「超・東大脳」たらしめたのかを知るためには、関係がありそうな要因を全て聞き出すしかありませんが、家庭環境、幼少期から現在に至るまでを具(つぶさ)に記録した書籍は他になく、そこが本書のオリジナリティであると思われます。(「はじめに」より)
人も羨むような輝かしい経歴だけを提示させられれば、受け手である読者は「自分とは違う」というような感情に苛まれることになるかもしれません。しかし、ここでは各人の幼少期からの流れを追っているため、それぞれの成長記録やバックグラウンドを理解することが可能。
さらにはそれに加え、彼らの人生のなかで「どこが転機になったのか」「どういう基準でキャリア選択をしたのか」などについて触れられているのも重要なポイント。そのため読者は、自身の人生設計、あるいは子育てにも役立てることができるわけです。
インタビュー対象となっているのは、メディアアーティストの落合陽一、チェリオの3代目社長である菅 大介、IoTの民主化に尽力する玉川 憲、国際的に評価されるビジネスロイヤーの水島 淳、計算折り紙の第一人者である舘 知宏、国際法裁判で戦った実績を持つ弁護士の藤井康次郎、そして連続起業家Layer X CEOの福島良典の7氏。
きょうはそのなかから、弁護士である水島 淳氏のトピックに焦点を当ててみたいと思います。
弁護士だった父親から大きな影響をうけたことは?
水島 淳氏は兵庫県宝塚市の出身で、父親と母親、3つ下に弟がひとりいる家庭で育ったのだそうです。お父様は弁護士であり、つまりはその跡を継いだと考えることもできそうです。
そんなお父様は家庭では非常に厳格で、礼儀を重んじる人物。大阪に事務所を構え、ときどきに数名の弁護士を抱え、おもに一般民事や企業顧問を業務分野としているのだといいます。
受けた影響として大きいものは、「幹事の話」と「説得力の話」。そのどちらも、現在も自身の血肉になっていると水島氏は感じているのだとか。
いったい、それはどのような話なのでしょうか?(118ページより)
「幹事はお金を払ってでもやれ」
まずひとつ目は、大学進学の際にいわれたという「幹事はお金を払ってでもやれ」ということば。
水島氏はその教えを守り、大学進学後は高校の同窓会の幹事の手伝い、学生仲間でやるパーティーの幹事、企業や法律事務所訪問の調整係、クラブイベントの開催など、オーガナイザー系のさまざまなことに積極的に携わったのだそうです。
大学時代、弁護士を目指していた私は司法試験の勉強に追われていて、普通に過ごしていたら法学部のコミュニティーに閉じた暮らしを送っていたかもしれませんが、いろいろな場面で幹事をやっていたおかげで、他の学部の友人や学外の友人、社会人の方々とも繋がりができ自分の世界が広がりました。(118〜119ページより)
たしかに東大法学部に在籍するとなると、必然的に勉強に追われ、おのずと交際範囲も狭くなってしまいがちかもしれません。そんななか、教えに従って動いたからこそ、水島氏は視野を広げることができたのでしょう。
しかし、単に自分の世界が広がっただけではないようです。幹事や“とりまとめ系の仕事”を積極的に行ったことで、大きな行事やイベント、さまざまなビジネスの現場で「実際になにが起きているのか」「どのようなことが重要なのか」を垣間見ることができ、それによって成長できたという実感があるというのです。
いうまでもなく、さまざまな産業分野や業界を知っていることは、いろいろな意味でプラスになるはず。それを実感しているからこそ、学生時代にいろいろな現場を見ることができたことを「貴重な体験だった」と水島氏は認めるのです。(118ページより)
説得力の話
水島氏は小学生のころ、お父様に「六法全書を貸してほしい」とお願いに行ったことがあったのだといいます。その発想と行動力には驚かざるを得ませんが、実際に借りた六法全書を読んではみたものの、当然ながらその内容は小学生には難解すぎたよう。
そのため早々に読むのをあきらめてしまったものの、返す際に「よい弁護士として重要なことはなにか」とお父様に聞いてみたのだそうです。結果、その際に返ってきた「説得力だ」というひとことが、のちのち大きな意味を持つことになったのでした。
司法試験で問われる法律の理論や知識は法曹の素養の大前提として当然重要なのですが、今、実際に仕事をしていて、弁護士として一番大事なのは我々の提案や助言をクライアントに十分納得してもらうこと、すなわち、説得力ではないかと思います。(119ページより)
それは弁護士のみならず、あらゆる仕事に携わるすべてのビジネスパーソンにもあてはまることではないでしょうか? どのような仕事においても、説得力によって相手に納得してもらうことはとても重要なことです。(119ページより)
本書の企画は、著者自身の熱狂からスタートしたのだそうです。もともと人脈があったのではなく、出版社に協力してもらったわけでもなく、“話を聞くことができたら、日本の未来を担う読者のプラスになるであろう”と思った50名をリストアップし、ひとりひとりに直接連絡をして企画意図を伝えていったというのです。
その過程においては何十名もの人たちに断られ、そのたびに落胆もしたようです。しかし、そういった熱意から生まれたものだからこそ、ここに集められた7名からさまざまな思いを引き出せたのかもしれません。
Source: あさ出版