【聞きたい。】志賀健二郎さん 『小田急百貨店の展覧会』

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小田急百貨店の展覧会

『小田急百貨店の展覧会』

著者
志賀 健二郎 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
産業/商業
ISBN
9784480818621
発売日
2022/09/28
価格
2,420円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【聞きたい。】志賀健二郎さん 『小田急百貨店の展覧会』

[文] 産経新聞社

■再開発進む新宿西口を考察

戦後日本の消費文化の一翼を担った百貨店。そこで開催される展覧会は、国公立の美術館とは違う形での文化インフラの役割を果たしてきた。自身は、小田急百貨店(東京)で長く展覧会の企画運営に携わった。

新著は催事という視点でたどる百貨店文化史であり、百貨店を含めた「新宿西口」という場を考察した都市論でもある。きっかけは、新宿西口のシンボルだった小田急百貨店新宿店本館の営業終了のニュース。

「百貨店の展覧会は質が高く、内外の優れた美術品のほか、漫画や写真、ファッションなどのサブカルチャーも先駆的に扱った。公営の美術館で予算がつきにくい新人アーティストの発掘を担ったのも百貨店。それらを記録に残すべきだ」

もう一つの理由は、副題とした「新宿西口の戦後50年」について書きたかったからだと言う。

小田急沿線の街で育った。小田急百貨店に入社したのは高度経済成長末期、本館の全面開業から約7年の昭和49年。現在は高層ビルが林立する新宿副都心は「空き地の方が目立つような状態だった」と話す。

新宿駅地下1階の西口広場から副都心方向に目を向けると、今もトンネルの暗闇が広がる。「当時はその先に繁栄があるという共同幻想があった。闇の向こうに、世界中から人が集まる米ニューヨークのような街が誕生すると希望が持てた」。だがバブルが崩壊すると、百貨店業界は低迷。軌を一にするように、トンネルの暗がりには路上生活者(ホームレス)の「段ボール村」ができた。

「歌舞伎町のある新宿東口のような猥雑(わいざつ)さも活気も生まれなかった。西口の副都心計画は端的に言って失敗」。だが今また再開発が進む。小田急百貨店新宿店の跡地には超高層ビルが建つ予定だ。一帯は大きく再編成される。「その前に検証が必要。古くなったから取り壊しでは意味がない。今度こそ、活気ある創造的な場を生み出してほしい」(筑摩書房・2420円)

   ◇

【プロフィル】志賀健二郎

しが・けんじろう 渋谷ファッション&アート専門学校校長。昭和25年、兵庫県生まれ。小田急美術館館長、川崎市市民ミュージアム館長を務めた。

産経新聞
2022年11月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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