『非科学主義信仰 揺れるアメリカ社会の現場から』
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超大国を引き裂く科学不信
[レビュアー] 佐藤健太郎(サイエンスライター)
ウクライナ危機、世界的インフレなどの難局に見舞われる中、米国バイデン大統領は十分な指導力を発揮できずにいる。その一因は、間違いなく米国社会の分断による支持率の低下だろう。
及川順『非科学主義信仰』は、NHKのロサンゼルス支局長である著者が、引き裂かれつつある米国を現地で見つめたレポートだ。取材を続ける中から、著者は「科学」が分断のキーワードであるという結論に達する。科学(あるいは理性)に基づく合理的な判断を信じる者たちと、科学に不信を抱く者たちとの対立こそが、米国を真っ二つに割っているという視点だ。
科学に不信を持つ者の多くは、社会から取り残されたと感じている人々だ。言論の自由や聖書の教えを盾に、頑迷なまでに自らの主張を貫こうとする。Qアノンや銃乱射事件、反ワクチン運動といった問題の陰には、こうした「非科学主義信仰」があると著者は見る。彼らは自らを「目覚めた者」と信じ、皆が気づいていない「真実」を知らしめるために闘わねばならないと確信しているのだ。
科学や理性を信じる者を善、そうでない者を悪と、単純に決めつけるべきではあるまい。しかし手をこまねいているうちにも分断は拡大してゆく一方だ。
少しずつでも分断を埋めてゆくのは、社会への信頼の回復であると著者は結論づける。日本でも同様な分断は進みつつある。米国の諸問題は、我が国でも起こりうることとして考える必要がありそうだ。