『手数料と物流の経済全史』玉木俊明著(東洋経済新報社)

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手数料と物流の経済全史

『手数料と物流の経済全史』

著者
玉木 俊明 [著]
出版社
東洋経済新報社
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784492681503
発売日
2022/09/30
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

『手数料と物流の経済全史』玉木俊明著(東洋経済新報社)

[レビュアー] 小川さやか(文化人類学者・立命館大教授)

「場の提供者が握る覇権

 本書は、出アフリカから現代に至るまでの世界史を振り返りながら、経済的覇権はその時々の状況に応じたプラットフォームを形成・提供した人びとが握ってきたことを通史的に描き出そうとする。

 現代の私たちにとって「プラットフォーム」と言えば、世界的なテック企業が提供するインターネットのプラットフォームである。出店料や利用料、仲介料、広告収入など稼ぎ方は多様だが、プラットフォームを提供する者が覇権を握っているというイメージは了解しやすいだろう。著者はこの用語を拡大し、過去において「構造的権力」をもった者が定めていた政治経済の規範文法やその物理的インフラを現代で言う「プラットフォーム」として捉えようと提案する。なぜならプラットフォームを利用する者たちが支払う多様な「手数料」こそが、その当時の時代の商業を制した者たちが何もせず、あるいは自動的に利益を得て覇権を維持する仕組みとなっていたのだから、と。

 とても面白く野心的な視座である。ただ著者も述べる通り、プラットフォームも手数料も見えにくいもので、各時代において何がそれらを指しているかはやや読み取りにくい。ハンムラビ法典やアルファベット、税金さえ払えば異教徒にも自由な居住を許したイスラーム、モンゴル帝国が整備した駅伝制から現代の中国による「一帯一路構想」や西欧の「タックスヘイブン」まで様々なプラットフォームが提示されるが、やはりもっともわかりやすいのは、19世紀末のイギリスの電信だ。世界最大の海運国家となった同国は海上保険と電信という二つの部門において他国を圧倒していた。国際貿易の決済はイギリスの電信を利用したので、同国は「コミッション・キャピタリズム」とも言うべき発展を遂げたのだと。

 経済活動は賭博場に似ていると著者は言う。賭博をするために胴元にカネを払うのと同じく、どの時代においても生産物の販売益や労働の対価ではなく、物流を支えるプラットフォームの手数料で儲(もう)ける覇者がいる。それを掘り起こす楽しみを得られる本だ。

読売新聞
2022年11月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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