『経営12カ条 経営者として貫くべきこと』稲盛和夫著(日本経済新聞出版)

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経営12カ条

『経営12カ条』

著者
稲盛 和夫 [著]
出版社
日経BP 日本経済新聞出版
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784296114986
発売日
2022/09/08
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

『経営12カ条 経営者として貫くべきこと』稲盛和夫著(日本経済新聞出版)

[レビュアー] 鵜飼哲夫(読売新聞編集委員)

当たり前 実行する覚悟

 経営とはとんと縁がない一記者が本書を手にしたのは、ひとえに好奇心からである。

 この8月に90歳で亡くなった稲盛和夫さんは、間借りの社屋で、従業員が数十人だったときから「日本一、世界一の企業になっていこう!」と呼びかけ、世界の京セラにした経営者である。10年ほど前の講話がもとの本書「まえがき」は死の20日ほど前に校了となり、〈12の経営の原理原則を守りさえすれば、会社や事業は必ずうまくいきます〉とある。さぞや独自のマネジメント原則が公開されているのかと思った。

 そうではなかった。〈事業の目的、意義を明確に〉〈勇気をもって事に当たる〉〈誰にも負けない努力〉など広く事をなすにあたっての要諦が並ぶ。後半は〈思いやりの心で誠実に〉〈明るく前向きに〉。まるで道徳の教訓だ。

 単純明快、当たり前のことが多い、と思う人もいるかもしれないが、ページをめくると、乱高下する景気、激動する世界で、当たり前の実行がいかに大変であったかが伝わってくる。

 戦後最大規模の企業再生となった日本航空再建では、多くの社員に職場を離れてもらい、反発も起きた。従業員の物心両面の幸福追求という、自らが企業経営の大義として掲げたことの内実が問われたが、二次破綻すれば全員が職を失う中での決断だったと記している。

 〈経営に打ち込んでいますと、「血の小便が出る」というほどの凄(すさ)まじい局面に遭遇することもたびたびです〉。この胆力は全然ありきたりじゃない。通園バスでの園児置き去り、警備の不備など基本動作がおろそかにされる昨今。本書は、経営の成功術というより、経営する者への覚悟を問う遺著であろう。

 稲盛流戦略も随所に登場する。長期計画を立てると計画に縛られ機動性を失うからと、1年ごとの愚直な努力をする「尺取り虫」経営で成長したという話は好例だ。先行きの見えない時代である。これは生きるヒントではないか。

読売新聞
2022年11月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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