『国鉄 「日本最大の企業」の栄光と崩壊』石井幸孝著(中公新書)

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国鉄―「日本最大の企業」の栄光と崩壊

『国鉄―「日本最大の企業」の栄光と崩壊』

著者
石井 幸孝 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784121027146
発売日
2022/08/22
価格
1,210円(税込)

書籍情報:openBD

『国鉄 「日本最大の企業」の栄光と崩壊』石井幸孝著(中公新書)

[レビュアー] 牧野邦昭(経済学者・慶応大教授)

光と影 JR元社長が総括

 今年は鉄道開業一五〇周年にあたり、多くの記念行事が行われているが、私たちが「昔の鉄道」として思い浮かべるのは一九八七年まで存在した国鉄(日本国有鉄道)ではないだろうか。国鉄とその分割民営化については、赤字ローカル線や労働組合、政治との関係、そして本州中心の視点から語られることが多かったが、本書は技術畑出身でディーゼル車両による国鉄車両の近代化を進め、JR九州初代社長を務めた著者による、新たな視点からの国鉄の光と影の総括である。

 戦後、GHQからの指示により政府の現業部門の国有鉄道は公共企業体として再編成される。企業性と公共性を持つ組織となった国鉄は、実際には戦前の鉄道省以来の官僚的意識が強く、中央集権的・年功序列的な組織となる一方で現場は家族主義的な雰囲気であった。鉄道の復興と整備が必要とされた時期にはこうした国鉄の特徴はうまく働き、職員も勤勉で、車両の近代化や新幹線の建設など大きな成果を達成する(著者の関わったディーゼル車両の開発についても詳述されている)。その一方で自動車にシェアを奪われ経営が悪化していくと、国鉄の硬直化した組織は環境変化に対応できず、労使が直接現場で交渉する現場協議制は様々な悪慣習の温床となり、国鉄は崩壊していく。国鉄は上り坂に強く下り坂に弱い日本的組織であった。

 一方で本書では、鉄道が戦争や戦後の混乱で疲弊していたにもかかわらず、それを復興させる投資を国が行う前に急に公共企業体へと再編成され、経営の自主性が制限される中で多額の設備投資を行わざるを得なかったことが、後に巨額の債務を抱え国鉄が経営破綻する要因となったことも指摘されている。国鉄分割民営化は実質的に三島会社と貨物の切り捨てだったとみる本書は、JR北海道・四国・貨物を半官半民とし、乗客の少ない整備新幹線を貨物輸送に活用する新幹線物流を推進する新しい政策を政府主導で行うことを提言している。国鉄の歴史を通じて組織のあり方、日本の将来など多くのことを考えさせられる良書である。

読売新聞
2022年11月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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