『レペゼン母』宇野碧著(講談社)

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レペゼン母

『レペゼン母』

著者
宇野 碧 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784065276464
発売日
2022/08/10
価格
1,540円(税込)

書籍情報:openBD

『レペゼン母』宇野碧著(講談社)

[レビュアー] 川添愛(言語学者・作家)

64歳母・息子 ラップ対決

 めっぽう面白い小説に出合ってしまった。これは、ラップバトルの楽しさを縦糸に、こじれまくった親子関係を横糸にして、人間どうしの対話と相互理解を描く物語だ。

 64歳の明子は、早世した夫から受け継いだ梅農園を長年切り盛りしてきた。情に厚く、頭の回転の速い彼女は、義理の娘・沙羅をはじめとする周囲の人々に慕われている。そんな彼女の悩みの種は、何をやっても長続きしない一人息子・雄大。彼は多額の借金を抱えて失踪中だ。

 明子は沙羅の影響でラップに出合い、のめり込んでいく。めきめきと腕を上げた明子は、セクハラまがいの歌詞で沙羅を傷つけた男性ラッパーを打ち負かす。その様は実に痛快だ。ラップをよく知らない私も、明子と一緒にラップの世界に入っていけるし、何より「言葉を武器に変えて、自分よりも腕力の強い相手を倒す」というラップの魅力がよく理解できる。

 話が進むにつれて、明子とダメ息子・雄大の関係の本質が照らし出されるのも、この小説の巧みなところだ。雄大がラッパー・you die(このネーミングがまた最高!)として活動していることを知り、彼と闘うことを決意した明子に、沙羅はこう助言する。「対戦するって、相手のことを想像して、相手の立場になりきることなんだと思う。本当の勝負って、相手を理解することなんじゃないかな」。息子に勝つために息子を理解しようとする明子は、息子から見た自分自身とも向き合うことになる。そこで初めて彼女が目の当たりにするのは、母親としての自分の二面性だ。

 レペゼンとは英語でrepresent、つまり「代表する」という意味で、ラップの世界では「背負って立つ」というニュアンスが込められているらしい。世の“母親”を背負って立ち、一度も分かり合えたことのない息子と対峙(たいじ)する明子は、バトルの末にいったい何をつかむのか。ぜひとも多くの方に見届けていただきたい。

読売新聞
2022年11月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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