<書評>『ポスト資本主義の欲望』マーク・フィッシャー 著

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ポスト資本主義の欲望

『ポスト資本主義の欲望』

著者
マーク・フィッシャー [著]/マット・コフーン [編集]/大橋完太郎 [訳]
出版社
左右社
ISBN
9784865280968
発売日
2022/08/03
価格
2,970円(税込)

書籍情報:openBD

<書評>『ポスト資本主義の欲望』マーク・フィッシャー 著

[レビュアー] 森元斎(長崎大准教授)

◆「68年闘争」後の思想分析

 マーク・フィッシャーは一九六八年生まれのロンドン大学ゴールドスミス・カレッジの教員だった。「だった」というのは、二〇一七年に自ら命を絶ったからだ。

 音楽や映像に関して、資本主義論と現代思想を用いて分析を加えていた研究者・教育者だ。教育者という強調点を置きたいのは、分析が鋭利な研究者ほど、弟子をあまり育てたりしていないものであるが、このマーク・フィッシャーのもとで学んだ、なんて人に何人も私は会ったことがあり、みんなかなり優秀。文章も素晴らしく、弟子にも恵まれ、なんで自殺なんかしちまったんだよ、と思わないでもないが、資本主義について真面目に考えたら、死にたくなるのも、わからんでもない。資本主義は私たちを殺すのだ。

 本書は、そのマーク・フィッシャーの最後の講義の翻訳である。それも完結していない。死の直前まで行われていた講義がそのまま活字化されている。どんな講義をするのか気になっていたが、ちょっと自分の授業と似ていたりしていて、親近感も湧く。小難しいことを言った後に、学生が無反応だった時には、こちらは笑うしかない。そんな場面も活字化されている。

 さて、内容だ。未完の『アシッド・コミュニズム』という著作の元ネタ講義になっていると言われており、世界的な「一九六八年」の闘争に影響を受けた思想と文化的事象に焦点を当てようとしている痕跡を私たちは読むことができる。とはいえ、文化的事象に関してというよりもむしろ、思想的営為、具体的に言えばルカーチやフロイト、マルクーゼやリオタールといった現代思想の「古典」を分析しながら語っている。実は、ごまんといる現代思想研究者も、これらの古典は、きちんと読解しているかと思いきや、押さえていない気がする(私も含め)。だから実は「新しい」読みだと思う。これに加え、授業の背景には明らかにドゥルーズとガタリの思想やスピノザの哲学が透けて見える。

 未完ならば、私(たち)がやってしまうしかない。死なないように、やる。

(大橋完太郎訳・解説、マット・コフーン編、左右社・2970円)

1968〜2017年。イギリスの批評家。著書『資本主義リアリズム』など。

◆もう1冊

マーク・フィッシャー著『わが人生の幽霊たち うつ病、憑在論、失われた未来』(Pヴァイン)。五井健太郎訳。

中日新聞 東京新聞
2022年11月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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