文庫300万部突破! 『呪術廻戦』芥見下々とのコラボでも話題の湊かなえのデビュー作『告白』の魅力とは

レビュー

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告白

『告白』

著者
湊, かなえ
出版社
双葉社
ISBN
9784575513448
価格
680円(税込)

書籍情報:openBD

文庫単独300万部の秘密に迫る!『呪術廻戦』芥見下々とのコラボでも話題の湊かなえのデビュー作『告白』の魅力を書評家・千街晶之が解説

[レビュアー] 千街晶之(文芸評論家・ミステリ評論家)

 湊かなえさんのデビュー作にしてベストセラー小説『告白』が、このたび文庫単独で300万部を突破した。これを記念し、お互いに影響を受け合っているという『呪術廻戦』著者・芥見下々さんの描き下ろしイラストによる限定コラボ帯での『告白』が発売された。

「娘はこのクラスの生徒に殺されました。」女性教師によるホームルームでの告白から始まる物語は息をつかせぬ展開で、怒濤の告白が読者を湊ワールドへと誘う──

 誕生から14年たって今なお多くの老若男女に読まれ続けている『告白』の魅力を、書評家・千街晶之さんのレビューにてご紹介する。

 ***

今読んでも鮮烈なデビュー作

湊かなえのデビュー作『告白』が2008年に刊行されてから、早くも14年の歳月が流れた。そのあいだに著者はヴェテランの域に達し、日本推理作家協会賞(短編部門)と山本周五郎賞を受賞したほか、直木賞・吉川英治文学新人賞・山田風太郎賞など錚々たる文学賞にノミネートされており、その活動領域はもはやミステリの枠内にとどまるものではない。作品の多くが映像化されているし、『贖罪』はアメリカ探偵作家クラブ主催のエドガー賞の最優秀ペーパーバック・オリジナル部門にノミネートされた。

この輝かしい経歴の始まりを飾ったのが『告白』だが、思えばこの作品は極めて異例のデビュー作だった。著者は「聖職者」で第29回小説推理新人賞を受賞し、それを連作化したのが『告白』だが、「連作になった」という事後の知識を一旦頭から振り払って「聖職者」を読み返すと、独立した短篇としての完成度が高く、それだけにこれが連作に膨らむとは想像しづらいのではないか。著者の非凡な構成力がこの一点からも窺えるが、その後の作品群にも、一人の主人公を軸にするのではなく複数の人物の視点で構成されたものが多いことを思えば、著者の資質が顕著に窺えるデビュー作だったとも言える。


湊かなえ『告白』の期間限定のカバー 『呪術廻戦』の作者・芥見下々が描き下ろし

『告白』は第6回本屋大賞を受賞するなど、大きな話題を集めてベストセラーとなった。2000年代半ばから、著者の他にも真梨幸子、沼田まほかるといった作家が相次いでデビューして「イヤミス」ブームが起きたが、これはその少し前の時期、エンタテインメント界を含む世間で「癒し」が持て囃され、その反動として生じた面があったことは今では忘れられていそうだ。しかし、そのような背景が過去のものとなってから読んでも『告白』は古びていない。イヤミスとは単に読後厭な気分になるミステリではなく、そこから突き抜けた境地がなければ優れたイヤミスにはなり得ない――と私は当時から繰り返し説いてきたが、『告白』のラストのいっそ痛快ですらある突き抜け具合は、今読んでも鮮烈さを失っていないのだ。

『湊かなえのことば結び』によると、著者は作品を書く際、「妥協しない。このままバッドエンドに向かうより、明るいラストになった方がいいんじゃないか、と思っても、自分がこの問題を突き詰めていきたいと思った内容については、小説の中でしっかり向き合おう、と」という姿勢で臨むという。『告白』を読み返すと、著者のそうした姿勢がデビュー作から貫かれていたことがわかる筈だ。

COLORFUL
2022年10月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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