万城目さんが描く登場人物は落語の御隠居さんたちのよう

レビュー

6
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あの子とQ

『あの子とQ』

著者
万城目 学 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103360131
発売日
2022/08/18
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

万城目さんが描く登場人物は落語の御隠居さんたちのよう

[レビュアー] 柳亭小痴楽(落語家)

 私は落語が大好きである。落語は何でもない日常を切り抜き、登場人物の持つどこかフワッと、とぼけた軽さでバカバカしく滑稽に物語を表現する。万城目学さんが綴る物語には、そんな落語のような柔らかい軽さがあり、万城目さんが描く登場人物には、落語の世界にいる御隠居さん達のような優しさがある。『とっぴんぱらりの風太郎』『偉大なる、しゅららぼん』などなど、どれも私をハラハラドキドキさせながら、心地よい安心感に包み込まれる優しさを感じさせてくれる。だから、私は万城目作品が大好きだ。

 今回の主人公は、吸血鬼の女子高生・弓子。ある日、弓子が目を覚ますと目の前にばけものが浮かんでいる! ベッドから飛び上がって階段を駆け下りる……冒頭からキテレツ全開、エンジンもフルスロットルかと思いきや、お父さんとお母さんはおっとりした冷めた態度で、温度差に可笑しみがある。最初のページから、もう私は文字を忘れて物語の中に引き込まれた。さらに弓子の親友・ヨッちゃん。このヨッちゃんと弓子のゆったりでのびのびとした関係性やトボけた掛け合いも面白く、二人のペースにこちらの頭もゆっくりと物語の世界へ染まっていく。

 そんなのほほんとした親友との青春学園生活から一転! とある事故をきっかけに万城目ワールドにエンジンがかかり物語は疾走していく! そして、ありえないはずの設定なのにありえるかのように腑に落ちさせてしまう生々しい描写が鬼気迫る臨場感をさらに躍動させる。そんな中で唯一マイペースなのがヨッちゃんだ。私はこのヨッちゃんが大好きになった。毎朝の会話でも告白の時でも事故からの再会の時でもそう。もしかしてヨッちゃんは大仏!?なんて新しい展開にワクワクさせられながらも彼女のバカバカしさに裏切られる。

 一方、不死の「原・吸血鬼(オリジナル)」と現代吸血鬼の「脱・吸血鬼化」という面白いテーマの中で鍵となる、吸血鬼が永遠に抱いていた恐怖、憎しみ、悲しみから生まれてしまった「Q」という存在。ひどい話なのだが誰も悪者ではない。17歳の女の子が初めてちゃんと向き合う「愛」と「理解」。通読してみると弓子は誰に対しても「理解の子」である。

 個人的に一番面白みを感じられたのは、万国の言葉を操れるブラドが日本語の印象を語るときの例え。万城目さんらしさ溢れるユーモアがあった。

 ぜひこの作品はシリーズ化して、ドラマ化!なんて、そう清子様に占ってもらいたい。

新潮社 週刊新潮
2022年11月24日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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