読み物としても一級品 もう射精で悩まない
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
ペニスを刀に、男を侍になぞらえ、新渡戸『武士道』にならって射精の道を説く書、その名も『射精道』。
男の快感に的を絞った昭和なおっさん向け調の仕立ては、意識高い方面から十字砲火を浴びそうながら、実はそこには戦略があって、狙いは意識低い系の中高年の男にまず読ませること。そこが変わらないと、性や生殖で若い世代や女が積む労苦は終わらないからね。
著者の今井伸は、中高生への性教育から子づくり世代の男性不妊、中高年のEDの治療までを手掛けてきた50代前半の泌尿器科医で、大病院の生殖医療部門のトップ。食欲、性欲、睡眠欲の「忠実な僕」として生きてきたと明かし、自らのヰタ・セクスアリスも進んで開示する語りぶりゆえ、読んでるうちに知り合いのいい医者からいい話を聞かされてるような錯覚に陥る。
途中、個人的な体験のあれこれが次々と思い出され、無知を悔やんだり己や相手を褒めたくなったりするから、読み物としても一級品だとして、でもやっぱり貴重なのはプロによる具体的な指南の数々(具体例はぜひ本書で!)。「気持ちのいい射精」の実現が、男だけでなくすべての性にとって、個人だけでなく社会にとって、今だけでなく未来にとって、どれほど役立つかまでがわかると、いやホントに気持ちよくなれるですよ、中高生から中高年まで。
射精する側は自分のために、射精させる側は子や孫や相手のために。買って損のない、使える医学書にして、信じられる実用書です。