『賭博者』
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賭博に魅入られた人々が今日もカジノへと集まる
[レビュアー] 川本三郎(評論家)
書評子4人がテーマに沿った名著を紹介
今回のテーマは「賭け事」です
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ドストエフスキーはいっとき賭博(ルーレット)に夢中になった時期があった。
はじめビギナーズラックで大金を得たことから病みつきになった。しかし賭博に勝ち続けることなどありえない。負けがこんでツルゲーネフに借金を申し込んだこともあるという。
その賭博体験から生まれたのが『賭博者』(一八六六年)。
ドイツの保養地にあるカジノを舞台に、賭博に取り憑かれた人々を描いている。見てくれは立派だが借金を抱えているロシアの将軍。その子供たちの家庭教師をしている「ぼく」。彼が心惹かれている将軍の義理の娘。将軍が年甲斐もなく追いかけている官能的な美女。
さらにこの町にはフランス人の侯爵やイギリス人の実業家もやってくる。国際的なサロンになっている。
賭博は負けても感情的にならず悠然と構えているのが紳士とされているが、大金が飛び交う修羅場ではそんなきれいごとは言っていられない。
圧巻は、モスクワからやってきた大金持ちの老婦人(将軍の伯母)がはじめてルーレットに挑むところ。
冷静な筈だったレディが勝負を続けるうちに熱くなって、あっというまに全財産に近い大金を失ってしまう(伯母の遺産をあてにした将軍は失望する)。
賭博は運次第で貧乏人が大金持ちとなる。逆もある。貧富が一瞬で入れ替わる。武力を伴わない一種の革命といっていい。
ジェラール・フィリップ主演で映画化されている。