『超圧縮 地球生物全史 (原題)A (VERY) SHORT HISTORY OF LIFE ON EARTH』ヘンリー・ジー著(ダイヤモンド社)
レビュー
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『超圧縮 地球生物全史』
書籍情報:openBD
『超圧縮 地球生物全史 (原題)A (VERY) SHORT HISTORY OF LIFE ON EARTH』ヘンリー・ジー著(ダイヤモンド社)
[レビュアー] 西成活裕(数理物理学者・東京大教授)
命のバトン 一気に読破
とんでもないスケールの本が出た。タイムマシンに乗って、地球上の生物の全歴史を一気に観光旅行した気分になれる。やや厚みのある本だが、内容が細かく分かれていて読みやすく、まとまった時間があれば1日で読み終えることができるだろう。さらに訳本だけの特典で、今や絶滅してしまった見慣れない生物たちのイラストがたくさん載っているのも嬉(うれ)しい。
生物は地球の動きには抗(あらが)えない。地球は生きており、大陸は動くし、大規模な噴火も起こり、そして凍結する。その度にせっかく栄えた生物たちは大量絶滅し、奇跡的に生き残ったものが新たに進化しながら命のバトンを繋(つな)いでいく。生命の誕生から5回の大量絶滅を経て我々ホモ・サピエンスが誕生するまでの流れは、奇跡と感動の連続で、本当に「読み終わりたくない」と思わせる数少ない本であった。しかもとてもタイムリーなことに、今年のノーベル生理学・医学賞を受賞したドイツのペーボ博士の業績が、まさにこの本のクライマックス部分のテーマとも関係している。それは、ホモ・サピエンスと絶滅したネアンデルタール人は交配していた、というもので、我々は既に絶滅した他のホモ属から遺伝子を受け継いでいたのだ。しかもこの遺伝子は、新型コロナの重症化と関係しているそうで、時空を超えた壮大な仕掛けを感じる話である。
先ほど読み終わりたくない、と書いたが、それは面白いからだけではなく、もう一つの理由があった。実は本書は、ホモ・サピエンスの誕生が観光旅行のゴールではなく、その先の未来の話もあるのだが、それを読むのが怖かったのだ。読み進めていくと、どうあがいても我々ホモ・サピエンスはいつか絶滅する、という事を受け入れざるを得ない。その時期は地球の変動だけでなく、今後どれだけ人類の活動が環境負荷を生じさせるかにも依存する。はるか先の子孫のために、我々は決して未来に負債を残してはならないのだ。竹内薫訳。