『中国パンダ外交史』
書籍情報:openBD
『中国パンダ外交史』家永真幸著(講談社選書メチエ)
[レビュアー] 国分良成(国際政治学者・前防衛大学校長)
近年、国のイメージアップのためのパブリック・ディプロマシー(公共外交)の重要性が指摘される。著者はその観点から中国のパンダ外交を振り返る。
パンダを世界に広めたのは欧米の宣教師や探検家。当初関心の薄かった中華民国政府がパンダの禁猟を命じたのは1939年、欧米の動物愛護運動に歩調を合わせた。パンダ外交の起源は、蒋介石夫人の宋美齢が米国向けに抗日を訴えたときだという。
戦後冷戦時、中国はソ連や北朝鮮にパンダを寄贈した。72年米中接近で米国にもパンダ外交。日中国交正常化後、日本ではパンダ寄贈に皆が「親中派」に。台湾では「トロイのパンダ」などと言われ警戒心も強かったが、結局パンダ人気には勝てず受け入れた。
90年代以降、中国政府はパンダをレンタル方式に切り替えた。絶滅危惧種に対する国際取引規制を規定したワシントン条約を考慮した措置だ。
パンダ外交は世界中がパンダを欲しがるから成り立つと著者は言う。可愛(かわい)さの足りない中国外交が、パンダにどれほど助けられていることか、と思う。