『イーハトーブ風景学』
- 著者
- 岡村 民夫 [編集]/赤坂 憲雄 [編集]
- 出版社
- 七月社
- ジャンル
- 文学/日本文学、評論、随筆、その他
- ISBN
- 9784909544261
- 発売日
- 2022/08/26
- 価格
- 3,520円(税込)
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<東北の本棚>賢治作品と「場所」論述
[レビュアー] 河北新報
花巻市出身の詩人、童話作家宮沢賢治の独創的な作品群は、「場所」と深く結び付いているのではないかという観点から、豊かな作品世界と精神性に迫った論考集だ。難解な論文が並ぶが、2人の編者を含む7人が独自の視点と鋭い分析から賢治ワールドを読み解き、新たな解釈を示している。
編者である法政大国際文化学部の岡村民夫教授は、賢治と場所の関係について、特定の機会に経験した地の刻印があると同時に、時代や地域を超越した原型性があると指摘する。その象徴として、岩手県を示唆しつつも無国籍的で不思議な地名「イーハトーブ」を挙げる。
さらに賢治が岩手という地にとどまり、素朴な写実で古里を表象するのではなく、ファンタジー的、SF的に古里を舞台にした傑作を次々と創作した点を高く評価。その上で、脱領土化された岩手県はテキストが根茎植物のように自由に成長するのを促し、1作では表現できない多様で重層的な時空の形成を支えたと分析している。
同じく編者で学習院大文学部の赤坂憲雄教授の「原風景としての丘のうえ」も示唆に富んでいる。赤坂さんは、作品に登場する丘を原型的なイメージとして捉える。さらに宗教学者の故ミルチャ・エリアーデさんの「風景全体が霊魂に満ちており、風景のどんな細部も意味を持っており、自然は人間の歴史を帯びている」という文章を紹介。この表現は賢治のために用意されていたようだと指摘しつつ、聖なる場所は、何らかの方法で選ばれた人間に「啓示される」のではないかと推察する。これは類いまれな賢治の才能を捉える上での卓見だろう。
岡村氏は1961年横浜市生まれ。赤坂氏は53年東京都生まれ。前福島県立博物館館長。東北学の提唱者でもある(沼)
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七月社042(455)1385=3520円。