広島でカリスマ的な人気を誇る横山雄二アナが語る 小説『アナウンサー辞めます』に込めた想い

インタビュー

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アナウンサー辞めます

『アナウンサー辞めます』

著者
横山 雄二 [著]
出版社
角川春樹事務所
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784758445191
発売日
2022/09/15
価格
799円(税込)

書籍情報:openBD

特集 横山雄二の世界

[文] 角川春樹事務所


横山雄二

地元広島のみならず、今や全国区の人気アナウンサー・横山雄二が、夢見るすべての大人たちに贈る、感涙必至の物語『アナウンサー辞めます』を刊行した。『ふるさとは本日も晴天なり』から4年ぶりとなる本作に込めた想いを作者が語る。

前作から四年ぶり、待望の新作小説の登場!

――次回作はいつ読めるのだろうと待ちわびていました。

横山雄二(以下、横山) 『ふるさとは本日も晴天なり』が刊行された段階で、次の準備を始めてくださいと言われていたんです。ただ、一冊書いたことで、世の中に小説を送り出すということがどれほど大変なことなのかを現実として知りました。何より、みなさんが読みたいと思えるものが自分の中から出てくるのかという不安や怖さがあって、躊躇してしまったんですよね。

――書きたいことがたくさんあって、絞り切れないのかなと。

横山 そんなことは一切ないですから。僕はね、書くのが本当に苦手なんです。でも声を掛けてもらえるということは、あなたならできると言ってもらっているようにも思えるし、それならなんとしても応えたい。でもやっぱり、生みの苦しみというのを存分に味わいました。

――前作は家族との関係を綴った実話がベースでしたから、今作も横山さんの更なるエピソードに出会えるのかなと思っていましたが、まったく違った。それでいて、前作以上に泣いて笑って、また泣いての繰り返し。読み終わったときは、心が軽くなったような爽やかな気分でした。

横山 僕も泣きながら書いたので(笑)、そう言っていただけるとほっとします。

――ただ、最初にタイトルを見たときはドキッとしました。『アナウンサー辞めますですから、紙上でフリー宣言でもされるのかと。

横山 退職届みたいですよね。でも、作り話ですから。タイトルもまったく違うものを考えていましたが、角川春樹さんがそれでは内容がわからないとおっしゃって。春樹さんの感覚を僕の作品に投影してくださったのだと思っています。小説二作目にして角川春樹がタイトルをつけてくれたという、横山雄二の歴史の中では名誉なことだし、なんなら一蓮托生だぜって(笑)。

――主人公は広島の放送局でアナウンサーをしている五十三歳の太田裕二。創作ということですが、どうしても横山さんが重なってしまいます。

横山 僕の文章というのは一人称で語られているように、オレという視点から見えている世界です。架空の人物ではあるんですが、嘘っぱちは書けない。だから、こういう局面だったら自分はこう言うだろうな、こういう風に行動するだろうなと自分に置き換えて書いているところはあるので、紛れもなく僕が投影されています。ちなみに、名前は一人爆笑問題というか、太田光さんと田中裕二さん、それぞれのお名前をお借りしています。

――なるほど!

横山 このことを爆笑問題さんのファンの方が耳にしたら、読んでみようかと思ってもらえるかもしれないなぁ、なんて思惑も入ってます。本って手に取ってもらうまでが大変じゃないですか。広く深く、いろんな人に興味をもってもらうにはどうすればいいのか。そんなプロデューサー目線みたいな感じもありますね。あと、今回もRCC(中国放送)の人間を巻き込んでます。登場人物の多くに「ごぜん様さま」に関わるアナウンサーやディレクター、スタッフなどを、当て書きのようにして使わせてもらいました。

夢を追い続ける男のストーリー

――リスナーのみなさんにはモデル探しの楽しみもありそうです。その物語は、タイトルにあるように太田がアナウンサーを辞めて、プロ野球選手を目指すというものです。

横山 ありそうでなさそうな、なさそうでありそうな、突拍子もない話になりました。書き始めたのはコロナが猛威を振るい始めた二〇二〇年の夏。当時、僕らは毎日笑いながら番組を送り出していましたけど、実際は絞り出すようにしてしゃべっていたし、初めて会社に行くのが嫌だとも思いました。そんな時に思いついた物語です。尋常でない閉塞感の中で、夢とか希望とか持てるような、光が見えるような作品を作りたい。そんな物語なら書いてみたいと。多分、自分自身が明るい光を浴びたかったんだと思います。それだけに、『アナウンサー辞めます』の世界はコロナのない設定にして、主人公には自在に暴れてほしいなぁと。

――「だって、オレの将来の夢はプロ野球選手だもん」。五十三歳でそう言い切る太田からは十分な暴れっぷりが伝わります。

横山 なかなか現実では言えない言葉ですよね。「なれそうなものになったのか、なりたいものになったのか」という文章が作中にもあります。理想はなりたいものになることだと思いますが、実際はそこまでの強い意志を持つことは難しい。だからこそ太田にはきっぱりと、オレはこうなると未来について言わせてあげたかった。

――この言葉には自分を信じる強さも感じます。

横山 太田は自分の意志で、初めて目の前にぶら下がっているチャンスをつかみ取ろうとした。それがたまたま五十三歳だったということなのかなと思います。僕もこれから高齢者と呼ばれる年齢になっていくわけですが、それでも、今が最新の自分です。今日が一番若いんだから、何かをやるなら今日が一番。年齢なんて関係ないという気概は持っていたいじゃないですか。

――太田は特別ルールのおかげもあって夢への第一歩を踏み出すわけですが、厳しい現実にも直面します。

横山 そうですね。ちゃんと傷ついて、ちゃんと弱くて。でも踏ん張らざるを得ないから、そこには家族の支えもあって。結局僕は家族の物語を書くんだなと。僕の中にある武器というか芯になるようなものというのは、家族だったり、愛だったり、とてもシンプルなものなんだと気づかされました。自分の中の発見でもありましたね。

――高校野球部の生徒をはじめ、様々な人たちも太田の大きな支えになっていたといいます。仲間やチームといった存在もとても魅力的に描かれていました。

横山 それはいつも僕が輪の中にいるということなんだと思います。アナウンサーという仕事のほかに、映画監督をやらせてもらったりしていて、いずれも表に立つ立場ではあります。だけど、そこには共に作る仲間がいます。見えないだけでラジオ番組にはリスナーさんが、映画には見てくださる観客の方がいる。そうした人たちに支えられて今があると感じているので、この作品の世界観にも出てきたのかもしれないですね。

――人を見る眼差しの優しさを感じるのは、そうした思いもあるのですね。

横山 やっぱり僕の中でリアリティのないものは書けないんですね。これまでに出会ってきた多くの方々が僕の小説を作ってくれている。それは間違いありません。

――「自分が自分の人生の主人公」というフレーズが何度も出てきますが、この言葉からも横山さんらしい力強いメッセージを感じます。

横山 今、みんなが注目するもの、気にするものってネットやSNSだったりしますよね。公共の交通機関に乗ったりすると、ほぼ十割の人が携帯を見ています。まるでその携帯の中にすべてがあるみたいに。でも僕は何も入っていないと思っています。車窓から景色を見ているほうが情報はあるし、人間観察をしているほうがよっぽど面白い。じゃあなぜ携帯の中ばかりを追いかけてしまうのかといえば、周りの目を気にし過ぎているから。世間一般の常識に囚われているからだと思うんです。普通とか言うけど普通なんてないし、誰もが自分らしく生きていいんだと。そんな思いを込めて書きました。

――まさに太田は常識には囚われない人物ですね。

人を後押しする言葉とはなんだろう。

横山 太田は自らの言動で世の中をどんどん変えていくけれど、それは後押ししてくれる人がいたからです。決して一人ではない。そして、このことは太田だからではなく、誰にも当てはまることだと思います。まずは一歩、思うままに動いてみたらいいんです。太田の言動が読者の方の背中を少しでも押せるといいなと思っています。

――横山さんらしいストレートな言葉は心に響きます。前作でも、心に残った言葉のフレーズに付箋を貼っている方が多くいるそうですね。

横山 僕は言葉を生業にしている人間なので、作品の主人公も魅力的な言葉を発する人にしたいと思っています。読み物なら、セリフが一番大事だなと。そこに横山イズムといいますか、普段考えていることで、もちろんできないこともたくさんあるんですが、そうした思いも込めているので広くみなさんに届けば嬉しいです。

――監督された映画「愚か者のブルース」も横山イズムに溢れたアツい言葉がたくさんありました。この映画は脚本も書かれていますが、小説と脚本の違い、小説だから書ける言葉というのはあるでしょうか?

横山 二つは似て非なるものだと思います。先ほどの「オレの将来の夢はプロ野球選手になることだ」を生身の五十三歳の俳優さんが言うと、なれるかよと言いたくなると思うんです。でも小説は、声を発せず、目で追う文字が脳みそに訴えかけていくというメディアです。読者の想像力が人物像を補ってくれることで、生きる言葉、リアルに感じ取れることがあると思います。

――そうした言葉とともに、この作品からは明日への活力をもらえるように思います。横山さんの背中を押すもの、モチベーションを上げてくれるものはなんでしょう?

横山 「憧れ力」です。僕は“なりたいと思っていた人になれているか”と、いつも自分の中で語りかけています。これまでに出会った多くの方のかっこいいと思った部分を集めたのが今の僕です。だから、どこかのタイミングで、今度は憧れられる側に、誰かにとっての憧れの人になれれば、それほど嬉しいことはない。太田は僕から見ても、かっこいいです。読者の方にもそう思ってもらえるのだとしたら、その人の人生の道しるべにもなれるかもしれない。それが僕のモチベーションです。

構成:石井美由貴 写真:河村綾奈 協力:角川春樹事務所

Book Bang編集部
2022年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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