子どもを産む決断とスピリチュアル市場と

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子どもを産む決断とスピリチュアル市場と

[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)

 例えば、人が放つ霊的な力(だという)オーラ。特別な気を有する場所(といわれる)パワースポット。特殊な力を秘める石(とされる)パワーストーン……。今やこうした「スピリチュアル」なコンテンツはテレビや雑誌、Webサイトなどのメディアを通して社会に広く浸透している。さらにいえば、それらの市場の「顧客」の中心が、なぜか女性という現状がある。「スピってる」という言葉が容易に揶揄として用いられる一方、肝心の背景や要因を解きほぐしてくれる本にはなかなか出会えなかった。

 そんななか現れた快著が橋迫瑞穂『妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ』だ。昨年八月の発売以来、各メディアで賛辞が寄せられ、今年九月にめでたく重版。統一教会がらみのニュースで霊感商法といったトピックに話題が集まるなか、本書も新たな読者を増やし続けている。

「近年は新書全体が飽和状態で、発売直後の勢いに頼らなくても売れ続ける本を出さなければと考えていますが、この本はある種の古典になり得ると思っています」(担当編集者)

 本書は「子宮系」「胎内記憶」「自然なお産」といったキーワードに象徴される、妊娠や出産に臨む女性たちに向けられたスピリチュアルな言説とその関連書籍を分析の対象に、かの市場がいかにメディアと結託しながら拡大してきたか、実に丁寧に解き明かしていく。そこから浮かび上がるのは、現代の女性たちが当然のように直面させられている困難のありようだ。

「この本はいわゆる“告発本”ではありません。こうしたコンテンツをただ“くだらない”“愚かだ”と断じて切り捨てることは、“キャリアか母親か”といった選択を女性だけに迫ってきた社会に葛藤しながら、藁をもつかむ思いで行動した人びとを一方的に批判することになってしまう。なにが彼女たちをそこへ駆り立てたのか、あくまで学術的に分析を進めながら、その部分を緻密に誠実にすくいとっている点が最大の特色だと思います」(同)

 中高年男性が読者の中心だといわれる新書業界にあって、あらゆる意味で革新をもたらすベストセラーだ。

新潮社 週刊新潮
2022年12月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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