『光を灯す男たち』エマ・ストーネクス著 小川高義訳(新潮クレスト・ブックス)

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光を灯す男たち

『光を灯す男たち』

著者
Stonex, Emma, 1983-小川, 高義, 1956-
出版社
新潮社
ISBN
9784105901837
価格
2,640円(税込)

書籍情報:openBD

『光を灯す男たち』エマ・ストーネクス著 小川高義訳(新潮クレスト・ブックス)

[レビュアー] 小川さやか(文化人類学者・立命館大教授)

 1972年、イギリスのコーンウォールの灯台から3人の灯台守が忽然(こつぜん)と姿を消す。海に囲まれた孤島の灯台で何が起きたのか。失踪事件から20年後、一人の作家が灯台守の妻や恋人、関係者への取材を始める。

 本書は、1900年に実際に起きた失踪事件を下敷きにし、時代や舞台設定を変えたオリジナル作品である。最後に伏線が回収され、失踪事件の謎が開示されるミステリー作品であると同時に、生き死にすら不明な大切な者への思いとともに長い間生きてきた失踪者家族の物語でもある。

 最初は作家の取材を受けることに葛藤があった妻や恋人たち。彼女たちは合理的に事態を解釈してみせたりもするし、生きている可能性に希望を抱いているそぶりもする。関係者が作家に語る失踪した夫や恋人らとの記憶と、事件当時の灯台守たちの実際の出来事を交互に読み進めるうちに、やがて妻たちの確執の背景や灯台守たちの過去、複雑な人間模様に潜む不可解な点が浮かび上がってくる。そして明かされる事件の顛末(てんまつ)と作家の正体。長く心に残る作品になりそうだ。

読売新聞
2022年11月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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