『憲法からよむ政治思想史』高山裕二著(有斐閣)

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憲法からよむ政治思想史

『憲法からよむ政治思想史』

著者
髙山 裕二 [著]
出版社
有斐閣
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784641149410
発売日
2022/09/21
価格
2,310円(税込)

書籍情報:openBD

『憲法からよむ政治思想史』高山裕二著(有斐閣)

[レビュアー] 苅部直(政治学者・東京大教授)

西洋思想に斬新な指摘

 ふつうの市民の方々に「政治思想史を専攻しています」と自己紹介すると、「政治家の思想のことですか」と尋ねられることがよくある。的はずれとは言えないが、政治思想の研究は、ある時代の特定の政治的な立場を分析することに尽きるわけではない。それならばどう説明するのが適切なのか。そのとき、わかってもらえやすい答えの一つは、「憲法みたいなもの」と説明するやり方である。

 憲法についての知識ならば、中学の公民、高校の現代社会(いまでは公共)・政治経済の授業を通じて、みながいったん学んだことになっている。人権とは何か。思想・良心の自由をいかに保障するか。政治権力を制限する権力分立のしくみ。どの範囲の人に参政権を認めるか。そういった憲法に関わる諸論点は、西洋の政治思想史において伝統的に問題とされてきた主題と重なる。秩序と人間との関係をめぐる考察という点で、政治思想と憲法をめぐる議論とは、深く共通しているのである。

 高山裕二による本書は、大学生などの一般読者にむけた西洋政治思想史の概説書で、古代ギリシアから現代までを通観しているが、「政教分離」や「結社/二院制」といった憲法に関する話題で各章を組み立て、日本国憲法の条文にもふれながら議論を進めるところが独特である。たとえば「思想・良心の自由/信教の自由」の章で大きく扱っているのは、通常は哲学・文学のテクストとして扱われることが多い、ミシェル・ド・モンテーニュの『エセー』。しかも十六世紀の宗教戦争の時代に、寛容を旨とする「妥協の政治」という近代の新たな政治像を打ち出した古典と位置づけている。

 そのほかにも、「基本的人権」を説いたジョン・ロックの思想に、二十世紀的な「理性の不安」という問題の先がけを見たり、「公共性」をめぐるイマヌエル・カントの議論を、日本国憲法の言う「全体の奉仕者」としての公務員の意味づけと結びつけるなど、斬新な指摘が並ぶ。初学者にも専門家にも有益な、いい意味でひとくせある概説書が登場した。

読売新聞
2022年11月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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