『人に優しいロボットのデザイン 「なんもしない」の心の科学』高橋英之著(福村出版)

レビュー

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人に優しいロボットのデザイン

『人に優しいロボットのデザイン』

著者
高橋 英之 [著]
出版社
福村出版
ジャンル
哲学・宗教・心理学/心理(学)
ISBN
9784571210440
発売日
2022/09/13
価格
2,640円(税込)

書籍情報:openBD

『人に優しいロボットのデザイン 「なんもしない」の心の科学』高橋英之著(福村出版)

[レビュアー] 西成活裕(数理物理学者・東京大教授)

「いるだけ」で安らぎに

 何もしない、とは一体どういう状態なのか。これまで私はあまり深く考えたことがなかった問いだが、考え出すとかなり面白いのだ。何もしないロボットを作りたい、という著者の想(おも)いはとても強く、少し読むだけでその世界観にあっという間に引き込まれていく。

 ロボットは、通常それに何かさせようという目的があって製作される。したがって目的がないと設計ができない。しかし何か目的を想定した瞬間に、それは何もしないロボットではなくなる。この矛盾をどのように解いていくのか、その試行錯誤は読んでいてワクワクするし、全く新しい研究分野の幕開けを感じさせる。そのヒントが、ネットで話題になり、テレビドラマにもなった「レンタルなんもしない人」である。これはただ傍(そば)にいるだけ、という仕事で、1人で入りにくい店、ゲームの人数あわせ、花見の場所とりなど、ただ1人分の人間の存在だけが必要なシーンでご利用ください、と本人がネットで発信し、その人気に火がついた。

 何もしないのになぜニーズがあるのか。ここに本書の核心がある。誰かが傍にいるだけで気持ちが救われるという経験は誰にでもあるだろう。それは必ずしも人でなくても良いのではないか。それならば、どうしたらロボットでそれを実現できるか。この問いに脳科学や情報科学、認知心理学等を駆使して挑んでいく。著者が目指しているのは、端的にいえば遠く離れて暮らす親、あるいは信仰している神様のような感覚を与えてくれるロボットである。いつも傍にいなくても、自分を見守ってくれている感覚があり、それが心の中に安全基地を作るのだ。ロボットを通して人の心を支える新しいインフラを作りたい、という著者の想いは、社会の極めて重要な一面を照らしていると思う。

 「レンタルなんもしない人」自身も本書の感想を次のように寄せている。「おもしろかったです」――これに優(まさ)る書評はないだろう。

読売新聞
2022年11月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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