『ドラッカー研究 思索の展開と焦点』春日賢著(文眞堂)

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ドラッカー研究

『ドラッカー研究』

著者
春日 賢 [著]
出版社
文眞堂
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784830951503
発売日
2022/08/29
価格
3,960円(税込)

書籍情報:openBD

『ドラッカー研究 思索の展開と焦点』春日賢著(文眞堂)

[レビュアー] 牧野邦昭(経済学者・慶応大教授)

機能する自由社会模索

 現代でも日本の経営者やビジネスパーソンに根強い人気があり、その著作や関連する書籍が広く読まれているドラッカーだが、「社会生態学者」を名乗ったドラッカー自身は何を目指していたのだろうか。本書はドラッカーの多岐にわたる著作を読み込み、悩み模索する思想家としてのドラッカーを描き出している。

 オーストリアのユダヤ系の家に生まれ、政治学を学びドイツでジャーナリストとして活動し、ナチスの政権掌握を機にドイツを脱出したドラッカーの原点は、全体主義への批判であった。それと同時に、全体主義を生み出した経済至上主義を克服するため、資本主義でも社会主義でもない自由で機能する社会を構築する方法をドラッカーは模索し続ける。

 アメリカに渡りGM(ゼネラル・モーターズ)の調査を行ったドラッカーは、大量生産体制によって登場し新たに社会的・人間的関係を形成する場となった企業をコミュニティーとしてとらえ、それを有効に組織することにより新しい社会を作り上げていくことを主張する。このように企業は社会的な制度であるため、その存在意義は顧客、つまり社会的ニーズを満たすこととなる。また権力集中に対抗し、権力の分散を進めながら社会を機能させるには、人々に社会的な地位と役割が与えられる必要があり、また人々は責任ある選択を行う行為主体とならなければならない。これらの実践のために「マネジメント」が誕生したと本書では分析している。

 専門書のため読みづらい部分もあるが、現在の日本で一般的に受容されている自己啓発的なドラッカーだけでは読み取れない、深く広い幅を持つドラッカーの思想を本書では知ることができる。格差問題や社会の分断が深刻となり、さらに全体主義的傾向も見られる現代において、自由で機能する、かつ実行可能な社会を目指した社会思想家としてのドラッカーに改めて注目すべきだろう。

読売新聞
2022年11月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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