『励ます禅語 「茶禅一味」の境地に学ぶ』金嶽宗信著(東洋経済新報社)

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励ます禅語

『励ます禅語』

著者
金嶽 宗信 [著]
出版社
東洋経済新報社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784492047088
発売日
2022/10/07
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

『励ます禅語 「茶禅一味」の境地に学ぶ』金嶽宗信著(東洋経済新報社)

[レビュアー] 中島隆博(哲学者・東京大教授)

身近な解釈 再起の力に

 禅語と聞くと皆さんは何を連想されるでしょうか。できもしない、矛盾に満ちたことを主張し、途方に暮れさせる言葉だと見る向きもあるでしょう。また難題を考えさせることによって、これまでの常識を疑い、仏教の悟りに一歩進める言葉だと考える人もいるかもしれません。

 ところが、ここに挙げられた禅語は、わたしたちと同じ目線に立つ著者の経験を通して、日常に生じる困難や苦しみを少しでもやわらげ、わたしたちにもう一度やってみよう、人生捨てたものではないと、励ましてくれるものなのです。

 たとえば、「応病与薬」(病に応じて薬を与える)という一節では、ALS(筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症)に罹(かか)った母親の話が述べられます。ある僧にもう死にたいと意思を伝えたところ、そのお子さんが学校でいじめられてお前もそうなるんだと言われたのに対して、「あんな病気をかかえているのに、毎日一生懸命生きている、日本一のかあちゃんだもん」と応じたことを伝えると、お母さんは涙を流しながら「私生きる」と言ったというのです。著者は言います。「お母さんの心の病を救ったのは、まさにこの息子さんです」。それこそが病に応じた薬だったのです。

 その他にも、「一滴潤乾坤」(一滴の教えが、広く世界に広がり、普(あまね)く及ぼされる)という一節があります。

 そこには余命三ヶ月と診断された女性が、子供の卒業式までは何としても生きていたいとして、二人のお子さんの卒業式を見届けられたという話があります。著者はそれを受けて、この禅語を「一滴の水とは、このお母さんの涙、そして命だと思うのです。お母さんは必死に生きて、それが大切な大切な子供たちにしっかりとバトンタッチされた」と解釈し直したのです。

 この他にも多くの禅語が身近な文脈に置き直され、まさに生きた禅語として語り直されるのです。これが伝統の継承と革新ということなのでしょう。茶の湯のお話もありますので、是非一服お茶を喫しながら、禅語を味わい、再び立ち上がる力を得ていただければと思います。

読売新聞
2022年11月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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