『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』長谷敏司著(早川書房)

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プロトコル・オブ・ヒューマニティ

『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』

著者
長谷 敏司 [著]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784152101785
発売日
2022/10/18
価格
2,090円(税込)

書籍情報:openBD

『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』長谷敏司著(早川書房)

[レビュアー] 小川哲(作家)

AI義足で圧巻の踊り

 二十一世紀になって、AIは囲碁や将棋で人間を打ち負かした。翻訳ソフトの精度が上がり、自動運転車も近い将来に実用化されるかもしれない。そんな中、最近はAIによる執筆や画像生成が話題になっている。すでにAIは芸術の分野でも仕事ができるようになりつつある。

 本書は「ダンス」という舞台芸術から、AIについて考える小説である。新進気鋭のダンサーである護堂恒明は、バイク事故によって右足を失ってしまう。これまでのように踊ることのできなくなった恒明は、製品モニターとしてAIを搭載した義足を利用することに決める。義足で踊ることの違和感を抱きながら、もう一度ステージで輝くために、恒明は踊りのプロトコル(手続き)を取り戻そうと悪戦苦闘する。

 ダンスは高度な身体芸術である。恒明は、現役の舞踏家でもある父との会話や、ダンスをするロボットとの練習を通じて、「踊り」のプロトコルを解体していくことになる。どういった動きが「人間らしい」のか。人間はなぜ踊るのか。右足を失ったダンサーは、自分の義足との対話を通じて、「どうすれば人間性を獲得することができるのか」と問い続ける。

 物語は中盤で大きく動き、これまで人間性の獲得について考えていた恒明は、人間性を失うことについても思考しなければならなくなる。中盤から後半にかけて、二つの問いが止揚し、「そもそも人間性とは何か」という、より深い地点へ向かっていく様は圧巻だ。終盤におけるダンス描写は、恒明の思考と踊りが小説という器の中で一体化し、さらには観客席とステージまでもが美しく溶け合う、本書の白眉である。

 AIについて考えることは、人間について考えることでもある。我々は人間をどのように定義しているのか。何が知性で、何が知性ではないのか。本書は、「AI」と「ダンス」というプロトコルを通じることでしか描けない「人間性」に迫る、切実な作品である。

読売新聞
2022年11月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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