「日本の現代小説の9割は東京が舞台」だったけど 「地方再生」モチーフの小説が成功する絶対条件

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

第二開国 = THE SECOND OPENING OF JAPAN

『第二開国 = THE SECOND OPENING OF JAPAN』

著者
藤井, 太洋, 1971-
出版社
KADOKAWA
ISBN
9784041090015
価格
2,035円(税込)

書籍情報:openBD

[本の森 仕事・人生]『第二開国』藤井太洋/『ストロベリー戦争 弁理士・大鳳未来』南原詠

[レビュアー] 吉田大助(ライター)

 日本の現代小説の九割は東京が舞台、と喝破したのは島田雅彦だ(二〇〇九年刊『小説作法ABC』)。しかし、このところその割合が徐々に変化しつつあるように感じられる。非東京を舞台にし、「地方再生」をモチーフに採用した小説が増えている。

 藤井太洋『第二開国』(KADOKAWA)で、自身がティーン時代を過ごした奄美大島を舞台に選んだ。主人公の昇雄太は、父親の介護のために東京からUターンし、地元のスーパーマーケットに就職し働き出した。配達先の一つが、西久慈集落で建設中の統合型リゾート施設だ。フランス人起業家を中心とした国際企業が同地を巨大クルーズ船の寄港地に指定し、「ユリムンビーチ」として開発をスタート。二〇〇〇億円もの莫大な資金が投下され、全島は活況に沸いていた。ところが……。雄太ら島民サイド、開発企業、公安。視点をスイッチする群像形式で、事業計画の裏に隠された真のビジネスを炙り出していく。個人的には、小川一水の月面開発SF『第六大陸』を思い出した。本作は著者がこれまで主戦場としてきたSFではないものの、度肝を抜かれるアイデアをシミュレーションし現実化する想像力には、センス・オブ・ワンダーが宿る。ウクライナ戦争など現在時制の問題や、奄美の歴史を取り入れたストーリーテリングも見事。

 南原詠『ストロベリー戦争 弁理士・大鳳未来』(宝島社)の舞台は、宮城県だ。久郷出身の大学研究員・初田優希が開発しイチゴ農家たちが栽培した新品種「絆姫」が、初出荷直前に大手総合商社から商標権侵害との警告を受ける。「絆姫」というイチゴの名称は何年も前に商標登録されていたのだ。仮に関係者がリークしていたとして、新品種名は幾つも候補があったにもかかわらず当該商社が「絆姫」に目をつけたのは何故か。そんなことをしてどんなメリットが? イチゴ農家から依頼を受けた凄腕女性弁理士・大鳳未来が、法の目をかいくぐるグレーなビジネスに立ち向かう。

 近年話題となったシャインマスカットの流出問題、種苗法改正などを背景に物語は進んでいく。そして、「絆姫」の商標権侵害を覆すためにヒロインが提案する起死回生のアイデアは、これぞまさしく“たったひとつの冴えたやりかた”。VTuberを題材にした前作(第二〇回『このミステリーがすごい!』大賞受賞『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』)は、物語の終盤でも専門知識が追加され、情報過多で結末が入り組んでしまっていた。しかし本作は、最終問題の立て方が明晰かつ解決のロジックもシンプル。ミステリーとしての快感が損なわれていない。

「地方再生」をモチーフにした作品の出来不出来を決めるポイントは、その土地だからこそ成立するビジネスをいかに発見・発明できるかだ。その絶対条件が想像力をポジティブに刺激して、作家を新境地へと向かわせるのかもしれない。

新潮社 小説新潮
2022年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク