<書評>『オスとは何で、メスとは何か? 「性スペクトラム」という最前線』諸橋憲一郎 著

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オスとは何で、メスとは何か?

『オスとは何で、メスとは何か?』

著者
諸橋 憲一郎 [著]
出版社
NHK出版
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784140886830
発売日
2022/10/11
価格
1,045円(税込)

書籍情報:openBD

<書評>『オスとは何で、メスとは何か? 「性スペクトラム」という最前線』諸橋憲一郎 著

[レビュアー] 尾嶋好美(筑波大学サイエンスコミュニケーター)

◆「変化する性」 科学的に可視化

 著者は、性スペクトラム(オス・メスの境ははっきりとしているのではなく、多様性に富み、連続して変化するもの)の研究者である。

 ヒトでは性染色体がXYであれば男性、XXであれば女性と考えられてきた。しかし性染色体からどのような遺伝子が読み取られるかという「遺伝的制御」と、性ホルモンがどのように働くかという「内分泌制御」の二つが、性差に大きな影響を及ぼしていることがわかってきた。ヒトを含む哺乳類では、男性ホルモンが脳のオス化を行っていると考えられている。男性ホルモン受容体の機能が完全に消失すると、性染色体は男性(XY)であっても、自身の性を「女性」と認識するそうだ。

 性の多様性を科学的な視点から考える上で、本書は非常に参考になる。性ホルモンの影響を受けるため、私たちの性スペクトラムの位置は「生涯を通して一定」ではない。胎児期は真ん中の「オス・メス0%」付近であるが、成長に伴い「オス100%」もしくは「メス100%」付近へ移動し、老年期になると、また真ん中付近に移動する。ただ、その位置は見た目ではわからない。本書では、実験手法の発展により、細胞内のすべての遺伝子の発現量を調べることが可能となり、性スペクトラムの位置を可視化できるようになったという研究成果なども示されている。

 私たちの体の細胞は性染色体を含んでいる。そのため細胞も、臓器や器官も性を有している。性スペクトラムの位置により、同じ種類の細胞でも働きが異なる。例えばマウスの骨格筋細胞においては、オス100%では糖の分解活性が強く、メス100%では脂肪酸の分解活性が強いといった違いがあることが明らかになってきているそうだ。だとすると、病気のなりやすさや薬の効き方などにも性差があるということになるのではないか。

 著者は「基礎科学研究者として、自身の研究が何の役に立つのかと聞かれると困る」と記しているが、実際には性スペクトラムの研究は大きな応用可能性を秘めているのかもしれない。

(NHK出版新書・1045円)

1957年生まれ。九州大大学院医学研究院教授・分子生物学。

◆もう1冊 

D・ローベンハイマー他著『科学者たちが語る食欲』(サンマーク出版)。櫻井祐子訳。食欲の仕組みを科学者たちが解明。ダイエットにも役に立つ。

中日新聞 東京新聞
2022年11月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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