育ての親である竜を実の父親に殺された少女の愛と復讐を描いたファンタジー小説『竜殺しのブリュンヒルド』著者インタビュー

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竜殺しのブリュンヒルド

『竜殺しのブリュンヒルド』

著者
東崎, 惟子
出版社
KADOKAWA
ISBN
9784049142167
価格
704円(税込)

書籍情報:openBD

育ての親である竜を実の父親に殺された少女の愛と復讐を描いたファンタジー小説『竜殺しのブリュンヒルド』著者インタビュー

[文] カドブン

取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木

■『竜殺しのブリュンヒルド』大反響を振り返る 東崎惟子先生インタビュー

第28回電撃小説大賞≪銀賞≫受賞作『竜殺しのブリュンヒルド』が、ライトノベル界隈はもちろん、ジャンルの壁を越えて大きな反響と話題を呼び続けています。エデンと呼ばれる孤島で竜に育てられたひとりの少女が、愛と復讐の炎を燃やし、竜を殺した実の父親、そして兄と向き合っていく本作。著者である東崎惟子先生に、物語の反響についての想いや作品誕生の裏話などをお聞きしました。

『竜殺しのブリュンヒルド』著者:東崎惟子 イラスト:あおあそ 電撃文庫
『竜殺しのブリュンヒルド』著者:東崎惟子 イラスト:あおあそ 電撃文庫

■この反響は想定外だった――生まれる喜びとプレッシャー

――『竜殺しのブリュンヒルド』が発売されてから約半年が経ちました。重厚なファンタジーの世界で描かれる愛と復讐の物語には、SNSをはじめ多くの感想が今も寄せられています。あらためて現在の心境をお聞かせください。

東崎:本当にありがたいことで、反響は予想よりも遥かに大きかったです。『竜殺しのブリュンヒルド』は、ストレスフルな展開が続きます。結末としてもそのストレスを解消する展開が待っているわけでもありません。個人的には電撃小説大賞で受賞こそさせていただきましたが、厳しい戦いになるのだろうと感じていました。

――そんなご自身の心配とは裏腹に、複数回にわたって重版が行われ、好評の声は届き続けています。その要因はどのように受け止めていますか。

東崎:一番は読者のみなさんへ作品がしっかりと届いたことだと思います。特にライトノベルでいうと、転生や無双、悪役令嬢といったキーワードに付随する作品が売れている、という程度の知識しか持ち合わせていなかったこともあり、そもそも作品がみなさんの元にまで届くのだろうかという不安も抱えていました。でも蓋を開けてみればそんな心配を吹き飛ばすかのように、多くの方に本作を手に取っていただき、その上評価までしていただけたことは本当に嬉しいです。

――ご自身の自信にも繋がると思うのですが、やはり安堵の気持ちが大きかったのでしょうか。

東崎:喜びや安堵はもちろんなのですが、そのぶんプレッシャーはより大きなものとなって感じています。『竜殺しのブリュンヒルド』は私の中でも大きな手応えを感じながら、絶対に書きたいものとして書いて、応募した作品でした。2作目以降がどうなってしまうのか。1作目の『竜殺しのブリュンヒルド』をどうやって超えていくのか、自身にとっての大きな課題も一緒に生まれました。

――ありがとうございます。寄せられている数々の感想を目にする中で、意外であったり印象的だなと感じた評価はありましたか。

東崎:意外だったのは、ブリュンヒルドの実の兄であるシグルズへの評価の高さでしょうか。応募前にも何人かの友人に読んでもらっていたのですが、その時もシグルズへの評価は高めでした。個人的な評価とは少々ギャップがあったのですが、読者のみなさんにも評価をしていただいたことで、私自身のシグルズへの評価や認識も変わったような気がしています。次巻以降でメインにできたらいいなと思うようにもなりましたね。

■『竜殺しのブリュンヒルド』――その原点にいたザックスという男

――シグルズへの好評価は東崎先生にとって意外なポイントのひとつだったわけですね。ご自身としてはやはり、タイトルにも名前を冠しているブリュンヒルドへの思い入れが強かったのでしょうか。

東崎:もちろんブリュンヒルドへの思い入れは強いのですが、一番を選べと言われたら陸軍大佐のヨハン・ザックスかもしれません。『竜殺しのブリュンヒルド』という物語を作り上げる際、最初に思いつき、そして骨子を作ってくれたのが彼でした。はじめは永年王国、いわゆる天国のような設定がないまま本作を書き続けていたのですが、とあるシーンでザックスが「悪いことをしたら天罰が降る」という台詞を口にし始めました。そこで「この物語には天国があるんだ、神様がいるんだ」と自分自身でも考えるようになったのです。ザックスがこの言葉を口にしなければ、物語の骨子は別のものになっていた可能性もあったわけで、この物語の原初はザックスでもあると言っても過言ではないのです。

――物語の根幹にはザックスがいたというエピソードは、驚かれる読者も多そうです。

東崎:そうですね。ただ、ひょっとしたらお気付きの読者もいらっしゃるのかもしれませんが、ザックスと白銀の竜は対比の存在になっています。白銀の竜という、神の教えに通ずる尊い存在、そして作中でもっとも俗物であるザックス。「神の教えに従えば天国に行ける」という竜と、「神が見ているから天罰が降る」というザックス。似たようなことも口にしていました。もちろん主役はブリュンヒルドですが、ザックスを書く上での熱量は非常に高く、ザックスなくしてこの物語は生まれなかったのかもしれません。

■信念は揺らぐことなく、復讐者として駆け抜けたブリュンヒルド

――ありがとうございます。それでは本作の主役であるブリュンヒルドについてもお聞かせください。彼女は愛と憎悪、竜と人間、その狭間でもがきながら、復讐者として駆け抜けました。ブリュンヒルドの奮闘は、ご自身の中でも大きな葛藤を抱えながら描いたとあとがきでも触れられていました。結末を意識したのはどのタイミングだったのでしょうか。

東崎:まず、ブリュンヒルドが己の信念に揺らぐことなく、駆け抜けるか駆け抜けないかでお答えしますと、駆け抜けることは最初から決まっていました。もちろん、復讐するか否か、貫徹できるかどうかはわかりませんでしたが、ブリュンヒルドが自分の信じる「愛」を裏切る展開には絶対にならないという想いはありました。なので、絶対に復讐をさせるぞと思いながら書いていたわけではなく、ブリュンヒルドというキャラクターの心情に沿う行動を取らせ続けた結果、自然と復讐者として貫徹するに至ったことになります。もし彼女の心情や性質に沿いつつ、復讐をしない別の道筋を思いついていたとしたら、彼女が復讐を選択しない可能性も十分にあったと思います。

――決まった結末に向けて動いていたわけではなく、それぞれのキャラクターの心情や性質に沿って書き続けた結果のラストだったんですね。ラストに至るまで、執筆中にもっとも想定外だと感じたシーンはありましたか。

東崎:ブリュンヒルドが入院し、シグルズがお見舞いに足を運ぶシーンがあったと思います。彼女がシグルズに対して計画の全貌を打ち明けてしまうのは、私としても本当に想定外でした。当たり前ですが、彼女が計画を実行するにしても、誰かに話していいわけがありません。口に出さない方が事を有利に進められるのは間違いないわけですよね。それでも口に出してしまったブリュンヒルドのことを、私自身、執筆しながら面白いなと感じていました。

■愛には人間の面白さが集約されている

――結末への向かい方や彼女の在り方、最終的にブリュンヒルドは自らの考える愛や幸せに殉じて復讐者となりました。他方、作中では白銀の竜が「永年王国へ行くには恨んだり殺したりしてはダメだ」とブリュンヒルドを諭すシーンも多くみられます。本作を通して、東崎先生の考える愛や幸せとは何か、ぜひお聞かせいただけますでしょうか。

東崎:幸せについてはかなり難しいので、「幸せは人それぞれ」という月並みの言葉でご容赦ください。愛については、綺麗な面も汚い面もあると思っています。汚い面を自覚しながら、思いやってこその愛なんだろうなと思いますし、そうあってほしいと思っています。一方で、ブリュンヒルドの自制がきかなかった決断と行動も、愛のひとつの形だと思うのです。白銀の竜が復讐を望んでいないことを重々承知の上で復讐者となったのですから。人の愚かしさと愛しさ、その両方を満たすものが愛なんじゃないでしょうか。愛には人間の面白さが集約されているんだろうなと感じます。

――第二部『竜の姫ブリュンヒルド』も発売されました。今後も様々な形で描かれるであろう「愛」の姿、それぞれの物語で描かれる「ブリュンヒルド」の姿に期待しております!

東崎:ありがとうございます。これからも応援していただけたらとても嬉しく思います。

KADOKAWA カドブン
2022年11月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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