「ゾンビの話で申し訳ない……」感染捜査シリーズの作者が、日本サルヴェージ株式会社に協力依頼した経緯を語る

エッセイ

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感染捜査 黄血島決戦

『感染捜査 黄血島決戦』

著者
吉川英梨 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334915001
発売日
2022/11/24
価格
1,925円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

沈没船を引き揚げる『感染捜査 黄血島決戦』著者新刊エッセイ 吉川英梨

[レビュアー] 吉川英梨(作家)

吉川英梨による「感染捜査」シリーズの第2弾『感染捜査 黄血島決戦』が刊行。1作目の『感染捜査』で大量発生したゾンビを始末するため爆破沈没させた豪華客船を引き揚げたいと思った作者が執筆秘話を語る。

 ***

 私は現在、海上保安庁の外郭団体「海上保安友の会」の理事をしています。各種式典、祝賀会などに出席すると、海上保安庁とやり取りのある多種多様な人と名刺交換をします。報道、教育、医療関係から造船、海運……。

 みなさん、小説家の私を珍しがり親切に接してくださいますが、中でも後日メールをくださって「なにかあればいつでも取材協力します」と言って下さった方がいました。日本サルヴェージ株式会社の大谷(おおたに)弘之社長です。

 沈没した船を引き揚げたり、転覆・横転した船を曳航(えいこう)したりすることをサルベージと言います。日本サルヴェージは国内屈指の技術を持った海難救助企業です。

 拙著『感染捜査』の一作目では大量発生したゾンビを始末するため、主人公二人が豪華客船を爆破沈没させました。物語にピリオドを打った瞬間、私は大谷社長のことを思い出しました。

 ――このゾンビ船、引き揚げたい。

 二作目を執筆するにあたり、すぐさま大谷社長に連絡をしました。担当編集者を伴って日本サルヴェージ本社を訪ねたのは四月中旬のことでした。知床(しれとこ)で遊覧船が沈没したのはその一週間後。作中に出てくる飽和潜水などの特殊潜水技術や、沈没船を引き揚げる具体的な技術などが連日報道される中での執筆となりました。夏ごろに門司(もじ)支店に伺い、技術者の方々と話しました。現場の想いと高い技術力を見聞きし、胸を打たれ、感嘆しました。そのたびに思ったのが、(ゾンビの話で申し訳ない……)。

 今回はゾンビとの戦いを舞台にした親子の物語でもあります。天真爛漫な主人公、天城由羽(あまぎゆう)が生き別れていた父とゾンビ船引き揚げ現場で再会します。一作目、最前線でゾンビと戦った海上保安官で、女性読者を虜にした(!?)来栖光(くるすひかる)も出てきますが、今回は由羽が主人公として大きく羽ばたいた一冊になりました。感涙必至の物語、是非お読みください。

光文社 小説宝石
2022年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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