17歳高校生の小説に震える 天然痘で失明する運命にある三味線奏者の少女の生き様を描く【京都文学賞受賞】

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ちとせ

『ちとせ』

著者
高野知宙 [著]
出版社
祥伝社
ISBN
9784396636357
発売日
2022/11/11
価格
1,760円(税込)

みずみずしい少女の生き様『ちとせ』 高野知宙

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

17歳で第3回京都文学賞を受賞した高野知宙による『ちとせ』が祥伝社から刊行。天然痘で失明する運命にある三味線奏者の少女の生き様をみずみずしく繊細な筆致で描いた本作の読みどころを、文芸評論家の縄田一男さんが語る。

 ***

 第三回京都文学賞受賞作である。ただし“中高生部門”ということからもわかるように作者は十七歳の高校生である。酷な言い方をすればそんな海のものとも山のものともつかぬ作家を取り上げてということになるが、その書きっぷりや作中人物が躍動するさまに接すると、ちょっとこの作家に賭けてみようかという気持ちにさせられる。

 物語は明治五年、博覧会に沸く京で幕が開く。故郷の丹後から出てきた少女ちとせは、元芸妓のお菊から三味線を習うことになるが天然痘にかかっており、将来失明する運命にあった。ちとせは、鴨川でひとり三味線を弾いていた時、俥屋(くるまや)の跡取り息子藤之助と出会い彼に誘われて京の町の見聞を広めていく。ほかにも邏卒(らそつ)の稔や乞食のツバメら多彩な登場人物がおり、作品を盛り上げる。

 ちとせは、一時、三味線は新しいものに取って替わられるんじゃないかと危惧するが、古都京都が時代と共に生まれ変わっていく町であるように三味線もまた新しい時代を生きていくと確信する。

 ちとせの「人の気持ちを目の見えるうちに理解したい」という思いに感動しない人はいないだろうし、終盤近く、藤之助がちとせを人力車に乗せて糺(ただす)の河原まで走るシーンはメルヘンの領域にまで達している。

 そしてラストのちとせが大舞台に立つ場面では、私たちも観客同様拍手を送りたくなる。普通、音楽を文学で表現することはかなりの難しさを伴うものだが私は第二回京都博覧会の場面でたしかに三味線の音を聴いた。ちとせ、すなわち、千都世の己れを曲げない生き方に涙する読者も多かろうと思う。

光文社 小説宝石
2022年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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