『グッドナイト』
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「集合住宅」ミステリー『グッドナイト』著者新刊エッセイ 折原一
[レビュアー] 折原一(作家)
昔からアパートやマンションなどを舞台にした「集合住宅」ミステリーが大好きである。隣に誰が住んでいるのかわからないような大都会のアパート(あるいはマンション)で、一癖も二癖もある住人が巻き起こす事件というテーマがたまらない。
このテーマですぐに思いつくのが戸川昌子(とがわまさこ)の『大いなる幻影』だろう。これは江戸川乱歩賞を受賞したサスペンス物の傑作で、東京の女子寮が舞台になっている。ちなみに、その時の乱歩賞の候補に中井英夫(なかいひでお)の『虚無への供物』があるが、私が選考委員だったとしても『大いなる幻影』に与えると思う。それから、山田風太郎の『誰にも出来る殺人』という超変化球ミステリーがある。これは戦後間もない都会の薄汚いアパートの一室で、住人たちが残したノートが巻き起こすどんでん返し連発の小説。
二十代の頃から、私の頭の中には常にこの二作品があり、作家になったら絶対このテーマで書いてみようと思っていた。最初に書いたのが『天井裏の散歩者』という作品である。タイトルは、江戸川乱歩の「屋根裏の散歩者」から一部(?)拝借したが、私は集合住宅ミステリーに乱歩のような「のぞき」テーマをぶちこんだ。書いている間は楽しく、悪乗りしたついでに続編まで書いてしまった。
今世紀に入って、私の中にまたぞろ「アパート熱」が高まり、ある老朽集合住宅を舞台にした『グランドマンション』(光文社)を書いた。各部屋の住人が巻き起こす事件が大きなうねりとなり、最後にマンション全体を巻きこむとんでもない結末になる。それにつづく『ポストカプセル』も基本的に同様の趣向。
そして、今回の『グッドナイト』。メゾン・ソレイユというアパートで繰り広げられる「不眠」にまつわる事件の数々。一つ一つの短編が最後にまとまって長編に変身。結末は誰にも予想できない(はずである)。