「作家になったら絶対このテーマで書く」作家・折原一が語った、「集合住宅」ミステリーへの情熱

エッセイ

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グッドナイト

『グッドナイト』

著者
折原一 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334914950
発売日
2022/11/24
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「集合住宅」ミステリー『グッドナイト』著者新刊エッセイ 折原一

[レビュアー] 折原一(作家)

 昔からアパートやマンションなどを舞台にした「集合住宅」ミステリーが大好きである。隣に誰が住んでいるのかわからないような大都会のアパート(あるいはマンション)で、一癖も二癖もある住人が巻き起こす事件というテーマがたまらない。

 このテーマですぐに思いつくのが戸川昌子(とがわまさこ)の『大いなる幻影』だろう。これは江戸川乱歩賞を受賞したサスペンス物の傑作で、東京の女子寮が舞台になっている。ちなみに、その時の乱歩賞の候補に中井英夫(なかいひでお)の『虚無への供物』があるが、私が選考委員だったとしても『大いなる幻影』に与えると思う。それから、山田風太郎の『誰にも出来る殺人』という超変化球ミステリーがある。これは戦後間もない都会の薄汚いアパートの一室で、住人たちが残したノートが巻き起こすどんでん返し連発の小説。

 二十代の頃から、私の頭の中には常にこの二作品があり、作家になったら絶対このテーマで書いてみようと思っていた。最初に書いたのが『天井裏の散歩者』という作品である。タイトルは、江戸川乱歩の「屋根裏の散歩者」から一部(?)拝借したが、私は集合住宅ミステリーに乱歩のような「のぞき」テーマをぶちこんだ。書いている間は楽しく、悪乗りしたついでに続編まで書いてしまった。

 今世紀に入って、私の中にまたぞろ「アパート熱」が高まり、ある老朽集合住宅を舞台にした『グランドマンション』(光文社)を書いた。各部屋の住人が巻き起こす事件が大きなうねりとなり、最後にマンション全体を巻きこむとんでもない結末になる。それにつづく『ポストカプセル』も基本的に同様の趣向。

 そして、今回の『グッドナイト』。メゾン・ソレイユというアパートで繰り広げられる「不眠」にまつわる事件の数々。一つ一つの短編が最後にまとまって長編に変身。結末は誰にも予想できない(はずである)。

光文社 小説宝石
2022年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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