『猿と人間』
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襲いかかる凶暴化した八五○頭の猿 動物ホラー・サバイバル・バトル
[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)
増田俊也という作家名から思い浮かべるのは、傑作ノンフィクション『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』を始めとする一連の柔道ものだろう。だが小説デビュー作は『このミス』大賞の優秀賞を受賞した迫真の動物ホラー活劇『シャトゥーン ヒグマの森』だった。
西村寿行を継ぐこのジャンルの旗手の登場かと期待を寄せたものの、その後柔道ものでブレイクして、動物ものからは遠ざかっていたが、久々に出ました、会心の一冊が。
今度の題材は、表題通り、猿。
高一の加藤英輔はジビエ料理店を営む父・誠一郎とともに人里離れた廃村に鴨猟にやってくる。両親の離婚後、英輔は母と暮らしていたが、再婚が決まった。そのため誠一郎は息子と暮らすべく自分の仕事の一端を体験させようとしていた。
村は一九八〇年代には限界集落と化し、今では八〇代の老婆・霜田良枝だけが住んでいたが、その良枝も三日後には町に住む娘の家に移る予定だった。誠一郎たちはテントの設営もそこそこに良枝の家に挨拶に向かう。彼女の話では、今では村中が動物だらけで、特に猿は一〇個以上の群れが疎開してきて、その数八五〇頭を超えるという。誠一郎たちの近くにはその調査に来ている大学のグループのテントもあった。
翌朝目的地の沼に行く途中で父子は動物に襲われた鹿の死体を目撃、その後鴨猟は成功に終わるが……。
出そうで出ないはホラーの怪物というわけで、英輔は村に到着後間もなく動物の影に脅かされ始めるが、猿はなかなか出てこない。物語前半は何故猿の大群が生じたのか、その背景事情の説明に費やされるが、全国の日本猿の数、三〇万頭は自衛隊員や警察官の数と同じなど誠一郎の蘊蓄話が不安を煽る。そして、突然に始まるバトル。
中盤から始まる三人対八五〇頭という絶望的な戦いにラストまで目がくぎ付けとなること請け合いだ。