独身のプロによる妙齢女子解体新書

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

まるごとバナナが、食べきれない

『まるごとバナナが、食べきれない』

著者
大久保 佳代子 [著]
出版社
集英社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784087817256
発売日
2022/10/26
価格
1,540円(税込)

書籍情報:openBD

独身のプロによる妙齢女子解体新書

「食」の思い出を通して、家族、恋愛、友情、仕事、そして一人で生きることについて語った連載エッセイを書籍化した本書。文章をまとめたのはライターで、相方・光浦靖子のような洒脱な筆致というわけではないのだが。40代から50代にかけての、働く独身女性の体と心の微妙な移り変わりが、自虐を交えてセンシティブに綴られている。

 ガムシャラに突き進んだ時期も過ぎ、勢いだけでは乗り越えられない壁や老いにぶち当たり。若い時は、酒量も多く酔い方も酷く、酒の力を借りて男にアプローチしていたが、すっかり体力が落ち酒にも弱くなり。呑まない、酔わない、自分を見失わない、おかげで何も始まらない。以前は貧乏男の作る手料理に感動することもあったが、リアクションが面倒になった今はもう、サプライズも有難迷惑。晩酌のツマミを分かち合う相手も男から犬に変化。長けていた妄想力もすっかり萎え、膨らむのは「この男、私の財産狙いなんじゃないか」というネガティブ系妄想。異性だけでなく、家族に対しても素直になれなかったが、歳を重ね「親もずっと元気なわけじゃない」と思うようになり、親孝行を心がけるように。若い頃は女友達の難あり彼氏に物申したりもしていたが、今は「友達が楽しそう」なら何も言わず。傷心で何も食べられなくなることで成功する失恋ダイエット。出すばかりで取り戻せない結婚式のご祝儀。映えとは無縁の記録目的のスマホ写真。老後のシミュレーションのようで恐怖したコロナ禍の生活。いとうあさことの友情、井森美幸への尊敬、島崎和歌子への辟易、光浦靖子への情誼……。数々の思い出と共に手繰られる食べ物は、具なしのおいなりさんやケンタッキーのチキンナゲット、チーズかまぼこに素うどんに結婚式の引き出物のアップルパイと、グルメ要素皆無。紐づけられた乾いたエピソードが胸と胃に沁みる。

 余人にはざっくり括られがちな「未婚女性」というものが、40代と50代では心身ともにこんなに違うとは。知ったところで利益はないが、知れば惻隠の情が止まらない。メロウな「上見て暮らすな」本。

新潮社 週刊新潮
2022年12月8日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加