『パンダのうんこはいい匂い』
書籍情報:openBD
『パンダのうんこはいい匂い』藤岡みなみ著(左右社)
[レビュアー] 南沢奈央(女優)
本当なのかどうか、パンダに興味がなければ、そもそもうんこに近づかなければ分からないことだ。わたしはパンダのうんこに特別な興味があるわけではないが、知らないことは知りたい。好奇心そそる、未知の香り漂う一冊だ。
本書は、“暮らしの中の異文化”を綴(つづ)ったエッセイ集。旅で感じる異文化だけでなく、日常の中にあるものを見ている。中国出身の家族との生活、家庭菜園、滝行や忍者体験、首吊(つ)りショー鑑賞、音声ガイド作りなど、好奇心の一言では片づけられない経験の数々。そのエネルギー源は何かと考えると、“知らないこととの境界線をなくすため”というところに辿(たど)り着く。
<こんにちはの一言さえあれば、旅が見学じゃなくて体験になる>という一文が印象的。知らない国の言葉を覚えて使ってみる。すると他国を異文化ではなく、自分事として体験できる。これはどんな場面にも置き換えられることだ。
知ることは世界に触れること、そして自分に出会うこと。そんな美しい発見ができると同時に、嗅いでみたいと自然に一歩近づける軽やかさも手に入れられる。