『闘う図書館 アメリカのライブラリアンシップ』豊田恭子著(筑摩選書)
[レビュアー] 中島隆博(哲学者・東京大教授)
米民主主義 地域の拠点
この本は米国の公共図書館を扱ったものだが、日本とは違いすぎていて、驚きの連続であった。図書館は、日本では書籍や最近では音響・映像資料の貸し出しというイメージだが、米国の公共図書館はそれを遥(はる)かに凌(しの)ぐ。それは図書館が地域のアンカー(支柱)機関として、民主主義の基盤を担う機能を有しているからだ。
たとえば、オバマ政権時代により進んだのだが、オバマケアの受付窓口になったり、金融危機以後に金融リテラシー教育を普及する拠点になったり、STEM教育すなわち、科学・技術・工学・数学といった科学技術教育の拠点となり、3Dプリンターなどを備えた大人向けのメイカースペース(ものづくり工房)を展開したりしているのである。
これは図書館が地域に根差し、新しい移民や貧困家庭出身の若者にチャンスを与え、それによって公平さ(一律のサービスの提供)というよりは公正さ(各利用者のニーズに沿った適切なサービスの提供)を実現し、「崩壊しそうなコミュニティを再生し、健全な民主主義を呼び戻そう」としている実例である。
こうした取り組みが可能になっているのは、ライブラリアンたちの地道な資金獲得の努力である。図書館はそれが属している自治体から予算を得ていたのだが、それだけでは、新しい図書館を建設してあらゆる地域に図書館サービスを行き渡らせるのは難しい。そのために、連邦補助金を何としても獲得しようとして、ロビー活動を必死に行ったのである。
それは後に、インターネットが普及していく中で、情報弱者救済のハブとして図書館を再定義する際にも用いられ、連邦予算からの補助金を増額させていった。それが今では、地域のアンカーとして地域再生のために諸セクターを繋(つな)ぐ役割を担うところにまで、補助金が使われているのである。
日本とは事情が違うと言ってため息をつくのか、それとも日本でも地域復興の鍵に図書館を据えて風景を変えてゆこうとするのか。大きな問題提起をしてくれた一書である。