『私だけ年を取っているみたいだ。』水谷緑著(文芸春秋)

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『私だけ年を取っているみたいだ。』水谷緑著(文芸春秋)

[レビュアー] 梅内美華子(歌人)

 副題は「ヤングケアラーの再生日記」。病気や介護などケアを要する家族がいる場合に家事や看病、感情面のサポートなどを行っている18歳未満の子どものことである。私たちはその実態や深刻さについて知る機会が少ない。

 本書は医療現場をコミックに描いてきた著者がヤングケアラーの当事者や病院、支援団体などへの取材から書き下ろした作。主人公の少女とその家庭に仮託し、さまざまなエピソードをちりばめて困難や苦悩、再生への道のりを描く。精神疾患をもつ親に代わり家族の世話をし、暴言や暴力に耐えている主人公はわずか8歳。勉強や遊びの時間を諦め、喜怒哀楽の感情を押し殺したまま大人になり生きづらさを抱える。

 失われた子どもの日々は重く心の傷は深い。親に依存される子はどこに助けを求めたらいいのかわからないのである。周囲が異変に気づくこと、それが孤立の回避と支援につながり、その子は自分の生き方を選択できるようになる。ほんわかとしたタッチで涙も希望も包み込む漫画。ヤングケアラーへの理解を促し一緒に考えたくなる一冊だ。

読売新聞
2022年12月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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