「『神話』の歩き方」平藤喜久子著(集英社)
[レビュアー] 金子拓(歴史学者・東京大准教授)
物語が先か大地が先か。大地が生まれ、生物のなかから人間が誕生して住みついた。自分たちがいかなる存在で、いかにしてその場所で暮らしはじめたのかを言葉によって編みあげる。神話はこうしてできあがった。神話学者の著者は、日本の神話をわかりやすく解説したあと、神話の舞台となった出雲・日向・対馬を中心に写真とともに懇切に解説してくれる。高千穂峰など、実際著者がその場所を訪れたときの経験がこめられているから解説が具体的で、キャプションまで読みごたえがある。本書を携え、その案内に導かれて、神話を感じる旅に出かけたくなった。
神話を知り写真を見ると、神々が息づいていたといにしえの人々が思い描いた場所、あるいは、神々の足跡(そくせき)がここにあると見いだした場所がたしかにそこなのだと思えた。体裁は小ぶりだが、人間の想像力の豊かさを実感できる充実した本だ。