『十三夜の焔』
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『十三夜の焔』月村了衛著
[レビュアー] 産経新聞社
天明4(1784)年5月の十三夜、男女が惨殺された現場で出会った江戸の市中見回りを担う幣原喬十郎(しではら・きょうじゅうろう)と盗人・千吉。因縁の相手としてつながり、憎み合う2人の50年を描く、ミステリーと人間ドラマが融合した時代小説だ。
喬十郎が事件の真相を追う中で、幕府の金融政策の闇が絡む過程はスリリング。裏社会を出て両替商となる千吉が、権力の腐敗に沈んでいくさまは生々しい。
幕府老中の田沼意次や「鬼平」でおなじみの長谷川平蔵ら、実在の人物を背景に描かれる政治の暗部も真に迫る。因縁の2人の決着には痛みを伴う中に温かさがある。(集英社・1980円)