【気になる!】文庫『旅ドロップ』江國香織著
[レビュアー] 産経新聞社
茶葉を直接カップに入れ湯を注ぐだけで驚くほどおいしかったロシアの紅茶。若い頃、不案内なパリ旅行で怖(おじ)気(け)づいた著者を救った友人・真理ちゃんの一言。被葬者の生前の様子が思い浮かび、「墓は死者の家」だとしみじみ思ったブエノスアイレスの墓地…。
旅好きの著者が、旅の情報誌に連載したエッセーなど37編と、単行本未収録の詩3編を収録。国内外の旅のエピソードから、「更級日記」の現代語訳の仕事で知ったワイルドな平安時代の旅や、「私の歯は、旅先でよく抜ける」という話題まで。短い文章だが、旅先の空気、音、料理の匂いまでが伝わってくるようだ。(小学館文庫・572円)