九年連続で決勝進出を果たしたコンビを軸にたどるM-1の歴史
[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)
「やっぱりヤな奴だったんだ」
読み始めて、テレビから感じていたことは正しかったと確信する。漫才師「笑い飯」の髪の短い方、哲夫のことだ。相方で長髪の西田に悪い印象はないのだが、私はどうも哲夫は好きになれなかった。なんか狡猾そうで言い方に棘がありヤンキー映画の悪役のよう。芸人仲間に評判のいいNON STYLEの石田が、そんな態度に切れて哲夫の胸倉をつかんだエピソードがすべてを物語る。
だが読了後、印象は一新。改めて笑い飯の過去のネタをネットで漁り、笑い転げていた。
二〇〇一年に始まり二〇一〇年にいったん幕を閉じた漫才コンテスト「M-1グランプリ」は多くのスター漫才師を生み出した。
優勝賞金一千万円と翌日から確実に全国区のスターダムに駆け上ることが約束された賞である。その証拠に、現在、バラエティやワイドショーのMCやリポーターで活躍しているのはこのM-1出身者が多い。第一回の優勝者は「中川家」。
そんな漫才師の中でひときわ異彩を放っていたのが「笑い飯」だ。
二十一世紀に入り凋落著しい漫才を復活させるために企画されたのが、M-1グランプリだった。予選から勝ち上がった全国的には無名の新人漫才師がガチでネタを競いあう。これが漫才師たちの魂に火をつけた。
「笑い飯」はダブルボケという新しいスタイルで第二回から第十回まで決勝に進み、毎年優勝候補に挙げられながら敗退。最後にようやく優勝した時のことはよく覚えている。
かと思えば、敗者復活から本選に進出し優勝をかっさらうコンビもいる。自分たちの芸風を計算しつくし全く不足のないネタを仕込んでも、出演順に泣くコンビもいる。本書ではそんな数々の漫才師たちに忖度無しでインタビューし分析する。断られたことも多かったのも頷ける。
二〇二二年一二月一八日、M-1の新しい優勝者が決まる。