品切れ、絶版本を復刊する本好きの救世主・河出文庫 お薦めの海外作品3冊

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品切れ、絶版本を復刊する本好きの救世主・河出文庫 お薦めの海外作品3冊

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)

 復活したあぁ! 書店で見つけ心の中で快哉を叫んだのが、コメディSF『銀河ヒッチハイク・ガイド』で知られる作家ダグラス・アダムスが、動物学者と共に、世界中の絶滅危惧種を探訪するルポ『これが見納め』(安原和見訳)です。マダガスカル島でアイアイを探す旅を手始めに、2人が会いに行った動物は、コモドオオトカゲ、キタシロサイ、カカポ、ヨウスコウカワイルカなどなど。

 ユーモアを駆使した筆致で描かれる、絶滅危惧種の現状と実際に接した威容や愛らしさ、自然保護に携わる人々の苦労、西洋式の常識が通じない国で経験するとまどいや驚き。どのページにも笑いどころがあって、読み物として抜群に面白い一冊なんですが、それだけじゃありません。時折差しはさまれる、人間は〈正と不正を区別する唯一の生物種である、というのは得なことだ。なにしろそのときどきに自分に都合のいい規則をでっちあげることができる〉といった辛辣な自己批判。地球環境が人類だけでなく、すべての生き物にとっての問題なのだということがよくわかるんです。

 在庫切れで近年読むことができなかった『これが見納め』を復刊してくれたように、河出文庫は他社で品切れや絶版になった本を復刊してくれる、本好きにとっては救世主のごとき存在。たとえば、11歳で夭折した天才少年の伝記を、同い年の幼なじみが書いたという突飛な設定からして食指が動きまくるスティーヴン・ミルハウザー『エドウィン・マルハウス』(岸本佐知子訳)。伝記パロディとして凝った構成のみならず、誰もが経験したのにほとんどの人が忘れてしまった、子供時代の“初めて”が網羅されているセンス・オブ・ワンダーの塊のような傑作長篇小説なのです。

 イタロ・カルヴィーノ『なぜ古典を読むのか』(須賀敦子訳)は、小説好きのバイブルといって過言ではない一冊。まずは冒頭、古典の定義14ヵ条を読んでみて下さい。それだけでも蒙が啓かれること請け合い。これが文庫で読めるなんて! 河出書房新社を拝みたくなる至宝の評論です。

新潮社 週刊新潮
2022年12月15日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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