『水のない川 暗渠でたどる東京案内』本田創著(山川出版社)
[レビュアー] 牧野邦昭(経済学者・慶応大教授)
童謡「春の小川」の歌詞のモデルとなったのは、東京・渋谷の近くにあり、今は地下を流れる河骨(こうほね)川だともいわれている。昔の東京には川と水路が血管のように張り巡らされていたが、都市化とともに多くは暗渠(あんきょ)(地中化された水路)となり忘れられていった。
しかし今は暗渠となっている東京の川や水路は、かつては農業用水や水車の動力としての役割を果たしており、地域間で水争いが起きるほどの重要な存在であった。そのため人々は様々な工夫で必要な水を引き、利用していたが、それを忘れ見えなくすることで現在の東京が作られていった。
本書では多くの写真や古地図、地形図を使いながら暗渠をたどることで、東京各地の失われた歴史を紹介している。本書を手掛かりに、今では街中の路地や遊歩道などになっている川や水路の跡を歩いてみると、見慣れた風景に人々が営んできた過去の歴史が重なり、新鮮な発見があるだろう。